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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)4128号 判決 1999年3月29日

甲事件原告

萩田哲夫

(ほか七名)

乙事件原告

山下浩

右各事件原告ら訴訟代理人弁護士

上坂明

舩冨光治

水嶋晃

町田正男

永見寿実

右甲事件原告ら訴訟代理人弁護士

小野裕樹

岸上英二

右甲事件原告ら訴訟復代理人弁護士兼

崎岡良一

乙事件原告訴訟代理人弁護士

甲、乙事件被告

西日本旅客鉄道株式会社

右代表者代表取締役

南谷昌二郎

右訴訟代理人弁護士

天野実

(なお、本件では、甲事件原告ら及び乙事件原告をいずれも単に「原告」といい、甲、乙事件被告を単に「被告」という。)

主文

一  原告らの訴えのうち、待合せ時間ないし待合せ勤務時間が労働契約上の労働時間であることの確認を求める部分(原告らの請求一、二、六の各2に係る部分)、待合せ時間、準備時間及び折返し準備時間の指定を求める部分(原告らの請求三に係る部分)並びに旧規程の一継続乗務キロの定めに従ってのみ就労の義務があり、新規程の一継続乗務キロの定めに従って就労する義務のないこと及び一継続乗務キロの限度が二二〇キロメートルであることの確認を求める部分(原告らの請求四に係る部分)をいずれも却下する。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告萩田哲夫、同盛重耕二、同荒木伸雄、同槻木一利、同冨田晃、同南村壽穂、同山下浩と被告間の雇用契約において、

1  右原告らが別紙(二)「就業規則現改比較表」の現行欄記載の労働時間の定めに従ってのみ就労の義務があり、同表の改正欄記載の労働時間の定めに従って就労する義務のないこと

2  別紙(一)「現行労働条件」(一)記載の待合せ時間が労働時間であること

を確認する。

二  原告西角克幸と被告間の雇用契約において、

1  同原告が、別紙(二)、(三)「就業規則現改比較表」の各現行欄記載の労働時間の定めに従ってのみ就労の義務があり、同表の各改正欄記載の労働時間の定めに従って就労する義務のないこと

2  別紙(一)「現行労働条件」(一)記載の待合せ時間及び別紙(一)「現行労働条件」(四)記載の待合せ勤務時間が労働時間であること

を確認する。

三  被告は、原告萩田哲夫、同盛重耕二、同荒木伸雄、同槻木一利、同西角克幸、同冨田晃、同南村壽穂及び同山下浩に対し、それぞれ、別紙(一)「現行労働条件」(一)ないし(三)に基づき待合せ時間、準備時間及び折返し準備時間を動力車乗務員運用表(乗務行路表)に指定しなければならない。

四  原告盛重耕二と被告間の雇用契約において、

1  同原告が、別紙(四)「乗務割交番作成規程現改比較表」の現行欄記載の一継続乗務キロの限度の定めに従ってのみ就労の義務があり、同表の改正欄記載の一継続乗務キロの定めに従って就労する義務のないこと

2  一般線区の一人乗務において、一継続乗務キロの限度が二二〇キロメートルであること

を確認する。

五  被告は、原告盛重耕二に対し、一般線区の一継続乗務において、乗務キロ二二〇キロメートルを超えて一人乗務させてはならない。

六  原告坂根克彦と被告間の雇用契約において、

1  同原告が別紙(三)「就業規則現改比較表」の現行欄記載の労働時間の定めに従ってのみ就労の義務があり、同表の改正欄記載の労働時間の定めに従って就労する義務のないこと

2  別紙(一)「現行労働条件」(四)記載の待合せ勤務時間が、労働時間であること

を確認する。

第二事案の概要

本件は、被告が、平成五年三月一八日、<1>待合せ時間の制度(動力車乗務員について、行先地の時間のうち一定の時間を労働時間とみなす制度)及び待合せ勤務時間の制度(列車乗務員について、行先地の時間のうち一定の時間を労働時間として指定する制度)の廃止、<2>準備時間及び折返し準備時間の変更(下限の引下げ)、<3>一継続乗務キロの限度の延伸等を内容とする就業規則の変更(以下「本件変更」という。)を行い、次いで、平成九年三月八日、一日平均労働時間を変更する等の就業規則の変更を行ったのは、労働条件の一方的な不利益変更であって原告らに対し効力を有しないとして、原告らが、被告に対し、新たな就業規則に基づく労働義務のないこと及び従来の就業規則に基づいてのみ労働義務があることの確認等を求めた事案である。

一  前提となる事実(いずれも、当事者間に争いがないか、証拠〔<証拠略>〕及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実である。)

1  当事者

原告らは、いずれも被告に雇用される者であるところ、被告は、昭和六二年四月一日、日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)が分割・民営化されるに伴い、西日本の地域において旅客鉄道輸送等を目的とする株式会社として設立された会社である。被告は、肩書地に本社、金沢市、岡山市、鳥取県米子市、広島市、和歌山市、京都府福知山市、福岡市に支社を置き、四万人を超える従業員を擁するところ、そのうちには、JR西日本労働組合(以下「JR西労」という。)、西日本旅客鉄道産業労働組合(以下「西労組」という。)、国鉄労働組合等複数の労働組合が存在している。原告らは、いずれもJR西労の組合員である。原告らの勤務場所、職種等は次のとおりである。

(一) 原告萩田哲夫(以下「原告萩田」という。)は、本件変更のされた平成五年三月一八日当時、淀川電車区(現京橋電車区)に勤務し、都市圏通勤線区である大阪環状線・片町線・桜島線の電車に乗務して運転士としての職務を行うことを指定されていた動力車乗務員であり、平成九年三月以降は、尼崎電車区に勤務している。同原告は、現在JR西労尼崎電車区分会に所属し、同分会長の役職にある。

(二) 原告盛重耕二(以下「原告盛重」という。)は、下関運転所(現下関地域鉄道部乗務員センター)に勤務し、一般線区である山陽本線等において電気機関車(ブルートレイン)等に乗務して、運転士としての職務を行うことを指定された動力車乗務員である。ただし、同原告は、平成六年一二月から平成九年一二月までは、ローテーションにより車掌業務を行っていた。原告盛重は、現在JR西労広島地本山口支部下関運転所分会に所属し、同分会書記長の役職にある。

(三) 原告荒木伸雄(以下「原告荒木」という。)は、本件変更当時、福知山運転所に勤務し、一般線区である福知山線、舞鶴線等において、電車などに乗務して運転士としての職務を行うことを指定されていた動力車乗務員であり、平成六年一二月以降は、篠山口鉄道部に勤務している。同原告は、現在JR西労福知山地本篠山支部に所属し、同支部書記長の役職にある。

(四) 原告槻木一利(以下「原告槻木」という。)は、小浜鉄道部に勤務し、一般線区である小浜線の気動車に乗務して運転士としての職務を行うことを指定された動力車乗務員である。同原告は、現在、JR西労金沢地本敦賀地区分会に所属し、同分会執行副委員長の役職にある。

(五) 原告西角克幸(以下「原告西角」という。)は、加古川鉄道部に勤務し、加古川線において気動車に乗務して運転士兼車掌としての職務を行うことを指定された乗務員である。同原告は、現在JR西労近畿地本加古川鉄道部分会に所属し、同分会執行委員長の役職にある。

(六) 原告冨田晃(以下「原告冨田」という。)は、米子運転所に勤務し、山陰本線、伯備線、境線の電車などに乗務して主任運転士としての職務を行うことを指定された動力車乗務員である。同原告は、現在JR西労米子地本米子支部米子運転所分会に所属し、同地本執行委員の役職にある。

(七) 原告南村壽穂(以下「原告南村」という。)は、紀伊田辺運転区に勤務し、紀勢本線の電車に乗務して主任運転士としての職務を行うことを指定された動力車乗務員である。同原告は、現在JR西労和歌山地本紀伊田辺支部紀伊田辺運転区分会に所属し、同支部執行委員長の役職にある。

(八) 原告坂根克彦(以下「原告坂根」という。)は、岡山車掌区に勤務し、東海道本線、山陽本線、山陰本線、伯備線などの列車に乗務して車掌としての職務を行うことを指定された列車乗務員である。同原告は、現在JR西労岡山地本岡山支部岡山分会に所属し、同分会執行委員長の役職にある。

(九) 原告山下浩(以下「原告山下」という。)は、大阪新幹線運転所に所属し、山陽新幹線の運転士として職務を行うことを指定された動力車乗務員である。同原告は、現在JR西労近畿地方本部大阪新幹線運転所分会に所属し、同分会執行委員の役職にある。

2  原告らの労働条件の定め

(一) 被告の従業員の労働条件は、就業規則及び賃金規程によって定められているが、乗務員(動力車乗務員及び列車乗務員)については、就業規則は労働時間の構成、内容、上限等について定めるものに過ぎず、その具体的就労内容は、個々の区所における列車ダイヤに基づいて作成される乗務行路(一勤務の始業時刻から終業時刻までの乗務行程)及び乗務割交番(所定の順序により循環するよう計画された乗務行路群)によって定まるものである。そして、乗務行路及び乗務割交番作成のルールについて規定するものとして、乗務割交番作成規程が定められている(以下、就業規則、賃金規程及び乗務割交番作成規程をあわせ、「就業規則等」という。)。原告らの所属するJR西労は、平成四年九月二八日、原告ら組合員の労働条件につき、被告との間で、有効期間を同年一〇月一日から平成五年九月三〇日まで(ただし、乗務員勤務に係わる条項及びこれに伴う賃金の条項並びに隔日交代勤務に係わる有効期間については、次期ダイヤ改正までとするものとされた。)とする労働協約(以下「本件協約」という。)を締結しているが、就業規則等の内容は、就業規則等が同年三月一八日に改正されるまでは、本件協約と同一であった(以下、平成五年三月一八日に改正されるまでの就業規則等を「旧規程」という。また、旧規程による制度を「旧制度」という。)。

(二) 被告は、平成四年九月、JR西労を含む各労働組合に対し、待合せ時間の制度の廃止及び待合せ勤務時間の制度の廃止を中心とする乗務員勤務制度の改正を提案した。これに対し、多数派組合である西労組は、同年一二月四日、被告との間で、ほぼ被告の提案を受け入れる内容の協定を締結したが、JR西労は、被告の提案する乗務員勤務制度の変更に強く反対し、ストライキ等を含めた反対運動を展開したため、妥結に至らなかった。しかしながら、被告は、平成五年三月一八日のダイヤ改正に合わせ就業規則等を変更し(本件変更)、実施した(以下、平成五年三月一八日に実施された就業規則等を「平成五年新規程」という。)。

(三) 被告は、さらに、平成九年二月、一日平均労働時間、年間休日数の変更などを中心とする再度の就業規則等の改正を行い、同年三月八日から実施した(以下、平成九年三月八日に実施された就業規則等を「平成九年新規程」という。なお、平成五年新規程と平成九年新規程を区別する必要がないときは、両者合わせて単に「新規程」といい、新規程による制度を「新制度」という。)。

3  旧規程における労働時間等の定めの内容

旧規程は、乗務員の勤務に係る条件について、列車乗務員(主任車掌及び車掌としての職務を行うことを指定された者)と動力車乗務員(主任運転士および運転士としての職務を行うことを指定された者)に分けて規定しており、旧規程の動力車乗務員及び列車乗務員の労働時間および動力車乗務員の一継続乗務時間・同キロの各限度についての定めは、次のようなものである。

(一) 一日平均労働時間

乗務員の具体的な労働時間は、乗務行路表及び乗務割交番による行路の指定によって定まるが、就業規則上その時間を超えて乗務割交番が作成されるものとされ、また、その時間を超えた労働時間が超過勤務として取り扱われる時間(その意味では、所定労働時間)が定められており、これを一日平均労働時間という。

旧規程における一日平均労働時間は、動力車乗務員、列車乗務員とも七時間三一分である(就業規則五九条)。

(二) 労働時間の構成(別紙(二)「就業規則現改比較表」の現行欄参照)

(1) 動力車乗務員

労働時間は、乗務時間、便乗時間、準備時間、折返し準備時間、看視時間、徒歩時間および訓練時間によって構成され、そのほかに、行先地の時間(「行先地」とは、一勤務の中間において乗務のため他の列車を待ち合わせる箇所をいい、「行先地の時間」とは、行先地における乗務した列車の到着時刻から次の乗務する列車の発車時刻までの時間のうち、出入区時間及び入換時間を除いた時間をいう。)から労働時間を除いた時間(なお、この時間を以下「折返しの時間」ということがある。)のうち、一定の時間を待合せ時間として労働時間とみなして取り扱うこととされている(就業規則九四条、一〇二条)。

ア 乗務時間(就業規則九五条)

実乗務時間、入換時間および出入区時間が乗務時間とされ、実乗務時間は、列車運転時刻表に定める列車の発車時刻から到着時刻までの時間とされるが、行先地の時間が一〇分以下の場合(便乗の場合は除く。)、その時間は実乗務時間に加算される。

イ 便乗時間(就業規則九六条)

便乗した列車の運転時刻表に定める列車の発車時刻から到着時刻までの時間。

ウ 準備時間(就業規則九七条、別紙(一)「現行労働条件」(二)参照)

一勤務の乗務の前後における準備もしくは整理のための時間。点呼、移動、車両点検整備、引継に要する時間などの所定の積算要素を作業の実態に応じて算出したうえ、乗務の前後それぞれにつき、積算合計時分を五分単位に切上げ、二五分から五分単位で六〇分までを八区分したうちから運用表に指定される。したがって、乗務の前後にそれぞれ最低二五分間が「準備時間」とされる。

エ 折返し準備時間(就業規則九八条、別紙(一)「現行労働条件」(三)参照)

一勤務の中間において、乗務のため列車を待ち合わせる場合に、労働時間として指定される時間。行先地における運転区所の準備時間から、乗継および便乗の場合は一〇分、出入区を担当する場合は五分を減じた時間までが運用表に指定される。

オ 看視時間、徒歩時間、訓練時間(就業規則九九条ないし一〇一条)

そのほか、看視時間、徒歩時間、訓練時間が必要に応じて運用表に指定される。

カ 待合せ時間(就業規則一〇二条、別紙(一)「現行労働条件」(一)参照)

行先地の時間から、前述の労働時間を除いた時間のうち、労働時間とみなして取り扱われる時間で、行先地の時間から労働時間を除いた時間の六分の一の時間である。ただし、<1>行先地の時間から労働時間を除いた時間が六〇分までの場合はその時間、<2>行先地の時間から労働時間を除いた時間が六〇分を超えるが、その六分の一の時間が六〇分未満の場合は、六〇分に切り上げ、<3>行先地の時間から労働時間を除いた時間が深夜帯の時間を二時間以上含み連続五時間以上ある場合は、四時間を控除して計算するものとされる。

(2) 列車乗務員

労働時間は、乗務時間、準備時間、徒歩時間及び待合せ勤務時間によって構成される。

ア 乗務時間(就業規則八六条)

乗務時間は列車運転時刻表に定める列車の発車時刻から到着時刻までの時間(便乗時間を含む)とされるが、待合せ時間が一〇分以下の場合(一方が便乗の場合は除く。)は、この時間を乗務時間に加算する。

イ 準備時間(就業規則八七条)

一勤務の乗務の前後における準備もしくは整理のための時間。点呼時間などの所定の積算要素を作業の実態に応じて算出したうえ、積算合計時分を五分単位に切り上げ、乗務の前後を通算した時間を三五分から五分単位で九〇分までを一二区分したうちから乗務行路表に指定される。したがって、乗務の前後を通算して、最低三五分間が「準備時間」とされる。

ウ 待合せ勤務時間(就業規則八九条、別紙(一)「現行労働条件」(四)参照)

一勤務の中間において、乗務のため他の列車を待合せる場合に、労働時間として指定される時間。電車及び気動車の場合は、待合せ時間(待合せ箇所における列車の到着時刻から出発時刻までの全時間)中の五〇分までが待合せ勤務時間とされるが、それ以外の列車の場合並びに電車及び気動車の場合であって、<1>列車種別が急行及び特別急行旅客列車の場合、<2>継続乗務キロが片道一〇〇キロ以上の場合、<3>指定線区の区間のみを運転する場合には待合せ時間中の一時間までとされる。また、待合せ箇所における到着又は出発のいずれか一方の列車が適用時分の異なる場合は、待合せ時間中の五五分までとし、待合せ時間が二四時間を超える場合には、待合せ時間から二四時間を控除した時間の六分の一の時間とされる。

エ 徒歩時間(就業規則八八条)

点呼箇所と乗務開始箇所又は乗務終了箇所との間の歩行に要する時間が一〇分を超える場合は、その超える時間を徒歩時間とし、乗務行路表に指定される。

(三) 乗務割交番作成の時間的制限

乗務割交番は、動力車乗務員、列車乗務員ともに、就業規則所定の一日平均労働時間を超え、四週間を平均して一週間四六時間の範囲内で作成するものとされる(就業規則九三条、一〇六条)。

(四) 一勤務の労働時間の制限

(1) 動力車乗務員

乗務割交番作成規程において、「一勤務の労働時間は、待合せ時間を除き一六時間を限度とする。ただし、深夜帯の乗務時間を二時間以上含む場合は、一四時間を限度とする。」旨定められている(乗務割交番作成規程一〇条)。

(2) 列車乗務員

乗務割交番作成規程において、「一勤務の労働時間は、一八時間を限度とする。ただし、深夜帯の乗務時間を二時間以上含む場合は、一五時間を限度とする。」旨定められている(乗務割交番作成規程三条)。

(五) 一般線区における動力車乗務員の一継続乗務時間及び同キロの制限

乗務割交番作成規程において、動力車乗務員の一般線区における一継続乗務時間及び一継続乗務キロの限度が定められており、その内容は次のとおりである(乗務割交番作成規程一五条)。

(1) 一人乗務の場合

一継続乗務時間は、深夜帯の乗務時間を二時間以上含む場合は四時間三〇分、その他の場合は六時間。

一継続乗務キロは、二二〇キロメートル。

(2) 二人乗務の場合

一継続乗務時間は、深夜帯の乗務時間を二時間以上含む場合は五時間、その他の場合は七時間。

一継続乗務キロは、三三〇キロメートル

4  平成五年新規程における変更の内容

平成五年新規程は、従来別体系の勤務制度として定められていた動力車乗務員と列車乗務員の勤務制度を統一し、その混み(ママ)運用を図りつつ、労働時間の構成及びその内容を変更するなどしたものであるが、その主な変更点は次のとおりである。

(一) 一日平均労働時間(就業規則五九条)

乗務員(動力車乗務員及び列車乗務員)の一日平均労働時間を、七時間とした。

(二) 労働時間の構成及びその内容(就業規則八六条)

(1) 動力車乗務員

ア 労働時間の構成の変更

労働時間を乗務時間、便乗時間、準備時間、折返し準備時間、看視時間及び徒歩時間により構成されるものとし(就業規則八六条)、従来労働時間として取扱われてきた「待合せ時間」を廃止するとともに、訓練時間についても、労働時間の構成から除外し、業務上必要のある場合は実施するものとし、実施する場合には時間外労働扱いにした(就業規則九七条)。

イ 準備時間の変更(就業規則八九条)

所定の積算要素を作業の実態に応じて算定のうえ、積算合計時間を五分単位に切り上げるものとされるが、従来二五分を最低とし、五分単位で六〇分までを八区分して運用表に労働時間として指定されていたものが、一〇分を最低として、五分単位で六〇分まで一一区分とするものに変更された。なお、積算要素に変更はない。

ウ 折返し準備時間の変更(就業規則九〇条)

折返し準備時間は、行先地における乗務前又は乗務後の準備もしくは整理のための時間とされ、準備時間に準じて取り扱うものとされた。

(2) 列車乗務員

動力車乗務員と同様に乗務時間、便乗時間、準備時間、折返し準備時間、看視時間及び徒歩時間を労働時間とし、従来、労働時間であった「待合せ勤務時間」を廃止し、折返し準備時間及び看視時間を新たに設定した(就業規則八六条)。その結果、折返し準備時間と看視時間の合計時間は、変更前の「待合せ勤務時間」より短縮された。なお、列車乗務員について便乗時間を労働時間としたが、これは従前、乗務時間に含まれていたものを別項目にしたにすぎず、内容的には変更はない。

また、準備時間は、従来乗務の前後を通算して三五分を最低とし、五分単位で九〇分までを二一区分して労働時間として指定されてきたものを、前記動力車乗務員と同一の制度に変更した(就業規則八九条)。

(三) 乗務割交番作成の時間的制限

乗務員の乗務割交番は、一日平均労働時間を超え、四週間を平均して一週間「政令で定める時間」の範囲内で作成するものとされる(就業規則九六条)。なお、平成五年三月現在の政令で定める時間は、四四時間である。

(四) 一勤務の労働時間の制限

乗務割交番作成規程において、動力車乗務員及び列車乗務員共通して、「一勤務の労働時間は、待合せ時間を除き一六時間を限度とする。ただし、深夜帯の乗務時間を二時間以上含む場合は、一四時間を限度とする。」旨定められた(乗務割交番作成規程三条)。

(五) 一般線区における動力車乗務員の一継続乗務時間及び同キロの限度(乗務割交番作成規程一〇条)

乗務割交番作成規程を変更し、動力車乗務員の一般線区の一継続乗務時間及び一継続乗務キロの限度が次のように変更された。

(1) 一人乗務の場合

一継続乗務時間は、深夜帯の乗務時間を二時間以上含む場合は三時間三〇分、その他の場合は四時間。

一継続乗務キロは、二四五キロメートル。

(2) 二人乗務の場合

一継続乗務時間は、深夜帯の乗務時間を二時間以上含む場合は四時間三〇分、その他の場合は五時間

一継続乗務キロは、三六五キロメートル。

5  平成九年新規程における変更の内容

平成九年新規程においては、労働時間の構成等基本的部分は平成五年新規程を維持したうえで、一日平均労働時間の変更、年間休日数の変更を行うとともに、乗務割交番作成規程を変更して、一勤務の時間制限を緩和するなどの改正が行われた。

(一) 一日平均労働時間(就業規則五九条)

乗務員(動力車乗務員及び列車乗務員)の一日平均労働時間を、七時間一〇分とした。

(二) 年間休日数(就業規則第四節)

年間休日数を、一〇四日から一一八日に変更した。ただし、乗務員は、そのうち三日は、勤務することを前提とし、勤務割等によってあらかじめ勤務を指定する無給の休日である「指定休日」とされ、勤務することが前提とされる。

(三) 乗務割交番作成の時間的制限(就業規則九六条)

従来の四週単位の変形労働時間制が、月単位の変形労働時間制(一か月を平均して一週間あたりの労働時間の上限を四〇時間とするもの)に変更された。すなわち、一か月間の労働時間が、一か月の日数が二八日の月は一六〇時間、二九日の月は一六五時間四二分、三〇日の月は一七一時間二五分、三一日の月は一七七時間〇八分を超えない範囲内で乗務割交番を作成するものとされた。

(四) 一勤務の労働時間の制限(乗務割交番作成規程三条)

動力車乗務員の一勤務の労働時間の制限は、従来一六時間(深夜帯の乗務時間を二時間以上含む場合は一四時間)であったものを、二暦日にわたる乗務行路については、一八時間(深夜帯の乗務時間を二時間以上含む場合は一六時間)に延長した。ただし、その場合乗務割交番毎に、当該乗務行路を平均して一六時間を限度とするものとされた。

二  争点

1  被告による平成五年三月の就業規則の変更(本件変更)が、原告らについて、労働条件の不利得変更となるか

2  仮に、本件変更が労働条件の不利益変更に当たる場合、その変更に合理性があるか。

三  原告の主張

1  総論

本件変更は、<1>国鉄時代から一貫して認められていた、待合せ時間及び待合せ勤務時間(以下、これらを「みなし労働時間」ということがある。)の廃止、<2>準備時間及び折返し準備時間の削減、<3>動力車乗務員の一継続乗務キロの限度の延伸等を内容とするものであり、原告ら乗務員は、これにより、労働時間の延長、一継続乗務キロの延長及び賃金の減額といった不利益を受けている。このように、本件変更は、旧規程及び本件協約によって定められた労働条件を一方的に不利益に変更し、原告ら乗務員の既得の権利を奪うものであり、そこには何ら必要性・合理性がなく、原告らに対し効力を有しない。

また、平成九年三月のさらなる就業規則の変更は、年間所定労働時間の短縮や休日の増加のように、一部平成五年新規程より改善された部分もあるが、みなし労働時間の廃止、準備時間及び折返し準備時間の削減、一継続乗務キロの限度の延伸といった内容は何ら変更されておらず、そのうえ、一日平均労働時間の延長、一勤務の制限の延長等さらに改悪された部分もあり、いずれにせよ旧規程における労働条件よりも不利益なものであって、本件変更の不利益性を解消するものではない。

2  本件変更の不利益性

(一) 労働時間の延長

(1) 動力車乗務員

ア 見かけ上の労働時間の短縮

本件変更は、待合せ時間を労働時間とみなす制度を廃止し、準備時間及び折返し準備時間も削減したものであり、その結果、旧規程では労働時間とされていた時間が労働時間とは評価されなくなった。

すなわち、平成五年三月以前の列車ダイヤ(以下「旧ダイヤ」という。)に基づく乗務割交番における動力車乗務員の一日当たりの現実の平均労働時間(以下、就業規則所定の一日平均労働時間と区別するため、「現実の一日平均労働時間」という。)は八時間一七分であったが、この乗務割交番に新規程を適用して労働時間を計算すると、動力車乗務員の現実の一日平均労働時間は七時間〇三分となるのであって、新規程は、同一の労働を行っていても、旧規程による労働時間の八五・一一パーセントを労働時間と評価するに過ぎない。

イ 所定労働時間の延長

旧規程における就業規則所定の一日平均労働時間は七時間三一分であったが、これは、新規程における労働時間の六時間二四分(七時間三一分の八五・一一パーセント)に相当する。しかしながら、平成五年新規程は、一日平均所定労働時間を七時間としたのであるから、所定労働時間は一日平均三六分延長されたのである。すなわち、被告は、原告ら乗務員に対し、新たに一日平均三六分の労働を命ずることができることになった。これは、平成九年新規程において一日平均労働時間が七時間一〇分とされたことにより、さらに延長され、一日平均四六分の所定労働時間の延長をもたらすことになる。

これを、年間所定労働時間について見ると、旧規程における年間の所定労働時間は一九六一時間五一分であったが、これは、新規程における労働時間の一六六九時間四四分(一九六一時間五一分の八五・一一パーセント)に相当する。一方、平成五年新規程における年間所定労働時間は、一八二七時間であって、一五七時間一六分増大した。また、平成九年新規程における年間所定労働時間は一七九一時間四〇分(指定休日は労働日として扱う。)であって、なお、旧規程におけるよりも一二一時間五六分増大している。

その結果、労働時間が平均より少なく、みなし労働時間を差し引くと七時間に満たないような区所においては、被告は実労働時間が七時間に達するよう労働を強化することができるようになる。現実にも、被告は、このような区所については、労働時間の平準化と称し、新たに乗務労働を大幅に増加させたり、運転士に対し、検修、改集札、清掃等の異職種労働を命じるなどして、労働時間が七時間を上回るような措置を講じている。

ウ 乗務割交番作成の時間的制限(上限)の延長

動力車乗務員の現実の労働時間は乗務割交番によって指定されるところ、旧規程では、乗務割交番作成の上限は週四六時間とされており、年間では二三九八時間三四分である。そして、これは、新規程における労働時間では、それぞれ週三九時間三七分(四六時間の八五・一一パーセント)、年間二〇四一時間二五分(二三九八時間三四分の八五・一一パーセント)に相当する。また、旧規程における乗務割交番作成の上限は、現実には、労使間の議事録確認により、週四二時間台とする旨合意されていたから、実際の上限は、週四三時間未満、年間二二四二時間〇八分未満であり、これは、新規程における労働時間では、週三六時間三六分未満、年間一九〇八時間一七分未満に相当する。ところが、平成五年新規程は、週四四時間の範囲内で乗務割交番を作成するものとしており、乗務割交番作成の時間的制限を延長した。また、平成九年新規程においては、乗務割交番作成の上限は、月の日数に応じて一六〇時間から一七七時間〇八分となったが、これは、年間二〇八五時間三六分であり、旧規程における上限よりはやはり延長されている。

エ 一勤務の労働時間の制限の緩和

旧規程の乗務割交番作成規程においては、一勤務の労働時間は、みなし労働時間を除き一六時間を限度とする旨定められていたところ、平成五年新規程においては、右時間は変更されなかったものの、準備時間及び折返し準備時間が削減されるため、旧規程よりは実労働時間の長い勤務交番の作成が可能となった。

さらに、平成九年新規程においては、二暦日にわたる一勤務の労働時間が、一六時間から一八時間に延長されたため、一勤務の労働時間の制限がさらに緩和された。

オ 現実の乗務割交番における労働の強化

以上のような就業規則の変更に伴い、平成九年三月ダイヤにおける現実の乗務割交番において、原告ら動力車乗務員の乗務キロ数、乗務時間、深夜時間及び拘束時間は、旧ダイヤに比べいずれも増加している。また、一部区所では、動力車乗務員に対し、運転士と車掌双方の業務を行う混行路や、一日毎に運転士としての予備と車掌としての予備の指定を可能にする混運用が導入されたほか、動力車乗務員に対し清掃などの異職種労働が命じられることが多くなった。さらに、ワンマン乗務が大幅に増加している。このように、本件変更によって動力車乗務員の労働が現実にも強化されたことが明らかである。

(2) 列車乗務員

ア 見かけ上の労働時間の短縮

列車乗務員についても、一勤務の中間において乗務のため他の列車を待ち合わせる場合について、従来「待合せ勤務時間」として一定の時間が労働時間として認められていたものが、平成五年新規程において、待合せ勤務時間が廃止され、代わって「看視時間」と「折返し準備時間」が設けられた。そして、平成九年新規程においてもこれが維持された。しかしながら、看視時間と折返し準備時間を合計しても、従来の待合せ勤務時間には満たないものである。すなわち、旧ダイヤに基づく乗務割交番における列車乗務員の現実の一日平均労働時間は八時間一二分であったが、この乗務割交番に新規程を適用して労働時間を計算すると、現実の一日平均労働時間は七時間二五分となるのであり、新規程は、同一の労働を行っても、旧規程による労働時間の九〇・四五パーセントを労働時間と評価するに過ぎず、一日平均四七分間(労働時間の九・五五パーセント)が労働時間としてカウントされなくなった。

イ 所定労働時間の延長

列車乗務員の就業規則所定の一日平均労働時間は、旧規程においては七時間三一分であったが、これは、新規程における労働時間の六時間四八分(七時間三一分の九〇・四五パーセント)に相当する。しかしながら、平成五年新規程は、これを七時間に延長するものであり、平成九年新規程も、これを七時間一〇分に延長するものである。

これを、年間所定労働時間について見ると、旧規程における年間の所定労働時間は一九六一時間五一分であったが、これは、新規程における労働時間の一七七四時間二九分(一九六一時間五一分の九〇・四五パーセント)に相当する。一方、平成五年新規程における年間所定労働時間は、一八二七時間であって、年間所定労働時間は五二時間三一分増大した。また、平成九年新規程における年間所定労働時間は一七九一時間四〇分(指定休日は労働日として扱う。)であって、なお、旧規程におけるよりも一七時間一〇分延長されている。

ウ 乗務割交番作成の時間的制限(上限)の延長

列車乗務員の現実の労働は、動力車乗務員と同様乗務割交番によって指定されるところ、旧規程では、乗務割交番作成の上限は週四六時間とされていたから、年間では二三九八時間三四分である。そして、これは、新規程における労働時間では、年間二一六九時間三〇分(二三九八時間三四分の九〇・四五パーセント)に相当する。また、旧規程における乗務割交番作成の上限は、現実には、労使間の議事録確認により、週四二時間台とする旨合意されていたから、実際の上限は、年間二二四二時間〇八分未満であり、これは、新規程における労働時間では、年間二〇二八時間(二二四二時間〇八分の九〇・四五パーセント)に相当する。ところが、平成五年新規程は、週四四時間の範囲内で乗務割交番を作成するものとしており、乗務割交番作成の時間的制限を延長した。また、平成九年新規程においては、乗務割交番作成の上限は、月の日数に応じて一六〇時間から一七七時間〇八分となったが、これは、年間二〇八五時間三六分であり、議事録確認によって合意されていた旧規程における上限よりはやはり延長されている。

(二) 一継続乗務キロの限度の延伸

本件変更が、動力車乗務員の一継続乗務キロの限度を二二〇キロメートルから二四五キロメートルに延伸したことは、それ自体不利益変更に該当するが、右変更の結果、一般線区で二人乗務制が採られていた山陽本線の下関・広島間(二二三・四キロメートル)のブルートレインが一人乗務となり、労働が著しく強化された。

(三) 賃金の減少

待合せ時間ないし待合せ勤務時間の廃止は、従来は労働時間として超勤時間、深夜額対象時間、夜勤手当対象時間とされていた時間の一部又は全部が、労働時間として取り扱われなくなることにより、超勤手当、深夜額、夜勤手当等の減少という賃金上の不利益をもたらすものである。

3  変更の必要性及び合理性について

本件変更には、何らの必要性も合理性も存在しない。特に、本件変更の中心的な部分を占めるのは労働時間の延長であるが、労働時間は、賃金と並んで最も重要な労働条件であるから、本件変更のような労働時間の定めに関する就業規則の不利益変更は、そのような不利益を許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合に限り、その効力を生ずるというべきである。しかしながら、本件変更には、かかる高度の必要性は全く存在せず、また、その内容も合理性を全く欠くものである。

(一) 変更の必要性の不存在

被告は、本件変更は、労働時間短縮を推進するために必要なものであると主張する。しかしながら、本件変更は、労働時間の構成を変えることにより、見かけ上「時短」をしているかの如く装い、労働時間短縮の社会的趨勢を乗り切ろうとするものであって、実質的には労働時間の延長をもたらすものである。したがって、労働時間短縮のために本件変更が必要であるとの被告の主張は全く理由がない。

(二) 待合わせ時間及び待合せ勤務時間の性質

被告は、待合せ時間及び待合せ勤務時間は、労働実態がないにもかかわらず労働時間とみなす不合理な制度であるから、これを廃止することに合理性があると主張する。また、みなし労働時間は賃金保障を目的とするものであるから、これを廃止することによる乗務員の不利益は賃金の減額に限られるとも主張する。

しかしながら、待合せ時間は、被告のいうように単に賃金保障を目的としたものではなく、乗務労働を安全かつ正確に行うことを義務づけられている乗務員にとって、次の乗務労働に備えて休息し、疲労を回復させるために必要不可欠な時間である。また、待合せ時間を含む行先地の時間は、ダイヤ編成によって必然的に生ずるものであり、乗務員は、この間自由な外出等は許されず、制服を着用して乗務員詰所等被告の指定する場所に待機することが義務づけられる。また、その間関係箇所との連絡などの業務も存在する。さらに、列車乗務員は、行先地において、制服を着たまま、乗客対応や不規則に発生する業務を行っているのであり、特に無人駅においては、列車内及びその付近で待機し、乗客対応をしたり列車を看視したりしており、現金管理業務を命じられることもあるのであって、まさに労働実態のある時間である。

(三) 待合せ時間及び待合せ勤務時間を廃止することの不合理性

(1) 前述のように、待合せ時間ないし待合せ勤務時間は、決して労働から開放された時間ではなく、いわば手待時間的な性格を有するものである。したがって、この時間は、労働契約上の義務の存する時間であって、休憩時間あるいは休憩時間に類する時間であるということはできず、いわば、うすめられた労働の存する時間であるということができる。したがって、行先地の時間の一定時間を労働時間とみなす待合せ時間の制度及び待合せ勤務時間の制度は、それ自体合理性を有するものであり、これを廃止した本件変更は不合理なものである。

(2) 待合せ時間及び待合せ勤務時間を廃止することに合理性がないことは、JR他社、私鉄、海外の鉄道産業における待合せ時間の取扱いと比較しても明らかである。

ア 乗務員勤務制度を変更した東日本旅客鉄道株式会社(以下「JR東日本」という。)、九州旅客鉄道株式会社、四国旅客鉄道株式会社は、新たに、あらかじめ作業が計画されていない時間であるが、列車の遅延等の場合は対応する時間とし、運用行路表に指定するものとされる「労働時間B」を設けることにより、実質的に待合せ時間を保障しているうえに、超勤前提交番制度(就業規則所定の一日平均労働時間を超えて乗務割交番を作成することを前提とする制度)を廃止し、かつ一日所定労働時間を七時間一〇分と設定しているのであり、被告の制度と比べ明らかに労働者の負担が軽くなっている。さらに、北海道旅客鉄道株式会社(以下「JR北海道」という。)では、待合せ時間を労働時間とする従来の制度が維持されている。

イ 日本の大手私鉄においても、待合せ時間はすべて労働時間とされている。

ウ イギリス、フランスでは待合せ時間のすべてが労働時間として取り扱われており、スイスでも、従来労働時間から除外されていた待合せ時間が、その後労働時間とみなされるに至っている。また、ドイツにおいても、行先地の時間のうち、一定時間を労働時間として取り扱っている。その他、オーストリア、スウェーデン、トルコ、ハンガリー、ルーマニア、スペインなどでも、待合せ時間を労働時間として取り扱っている。

(四) 一継続乗務キロの限度の延伸

一継続乗務キロの限度の延伸は、全路線における一人乗務を可能とするものであり、これにより、山陽本線下関・広島間のブルートレイン乗務が従来の二人乗務から一人乗務とされた。このような変更は、仮に代替措置として一継続乗務時間が軽減されたとしても、労働強化につながることは明かである。また、昭和六〇年の改正により一継続勤務キロ数が二二〇キロに増加して以来、設備面で目立った改善はされていない。

したがって、一継続乗務キロを延伸することには、必要性・合理性は存在しない。

(五) 賃金面での代償措置について

みなし労働時間を廃止することによる賃金の減額に対する被告の代償措置は、待合せ時間について、一時間当たりの賃金額の四一パーセントに過ぎないC加給を支給することとしただけであって、何らみなし労働時間の廃止に伴う賃金減額に対する代償措置となるものではない。

また、被告は、A加給、B加給を含めた新しい賃金体系を全体としてみると、新規程における乗務員手当は旧規程における乗務員手当と超勤手当の合計額よりも多額となるから、代償措置として十分であると主張するが、以下のとおり、仮に賃金体系を全体としてみたとしても、新規程は決して従前と同様の賃金を保障したものではなく、代償措置としては不十分である。

(1) 旧ダイヤに平成五年新規程を適用して賃金を計算した場合、博多新幹線運転所のほか七区所において新規程による乗務員手当の額が旧規程における乗務員手当と超勤手当の合計額を下回ることになるのであって、すべての乗務員について賃金が補填されたものではない。また、仮に平均的には賃金が補填されているとしても、旧規程よりも不利益を被る乗務員が存在することが前提となっており、さらに、労働時間が七時間に達するまで延長された場合を想定すると、旧規程と比較した場合の不利益はさらに大きくなる。

(2) 仮に現在は新制度の方が賃金が高いとしても、定期昇給及びベースアップを考慮すると、旧制度の場合は、昇給額が超勤手当の額に反映するから、将来的には、旧制度の方が賃金が高くなることは明らかであり、全体的には、少なくとも七年後に旧制度の賃金が新制度に比べ高額になる。事実、平成九年三月ダイヤを前提に、旧規程における乗務員手当と超勤手当の合計額と平成九年新規程における乗務員手当の額を比較すると、後者が上回るのは、わずか二区所に過ぎず、他はすべて下回っている。

(3) 紀伊田辺運転区における平成八年三月ダイヤに旧規程及び平成五年新規程を適用して賃金を比較すると、旧規程による賃金が新規程による賃金を上回る。また、大阪新幹線運転所を含むすべての新幹線運転所において、平成九年三月ダイヤに旧規程及び平成九年新規程を適用して賃金を比較すると、旧規程による賃金が新規程による賃金を上回る。

(六) 多数組合の同意について

(1) 本件変更は、動力車乗務員の労働条件に重大な影響を及ぼすものであるところ、本件変更が実施された平成五年当時は、動力車乗務員の六一パーセントがJR西労に加入していた。一方、被告における多数派組合であった西労組は、駅員、地上職などを多く組織していたのであり、動力車乗務員の組織率は低かった。したがって、西労組が本件変更について同意したからといって、本件変更によって不利益を受ける者の多数が本件変更を受け入れたとはいえないのであって、右同意の存在は、本件変更の合理性を何ら裏付けるものではない。

(2) 本件変更は、国鉄時代の内達一号以来数十年にわたって定着していた待合せ労働時間を廃止するという重大なものである。また、被告は、平成二年一一月、当時は原告らも所属していた西労組との間で議事録確認を行い、今後乗務員の時短をさらに進める旨表明していた。しかしながら、被告は、平成四年九月、交渉期間としてわずか二か月程度しか予定せずに突然本件変更を提案し、多数派組合である西労組と早期に妥結すると、JR西労とは全く誠意ある交渉態度を示すことなく、平成五年新規程を強引に実施に移したのであって、かかる交渉経過に鑑みると、動力車乗務員ら本件変更に関係する乗務員多数との間において利益の調整が図られたとは到底いえない。

四  被告の主張

1  本案前の主張

原告らの請求のうち、一ないし四及び六は、以下の理由により不適法であり、却下されるべきである。

(一) 原告らの請求のうち、一、二、六の各1について

ここで原告らが引用している就業規則の規定は、労働時間の構成及び長さだけを定める条項であり、具体的就労内容に関するものではないから、訴訟物の特定がない。

(二) 同一、二、六の各2について

原告らが確認を求めている「労働時間」が法律上いかなる意味であるのか不明確であり、かつ、労働実態とは何ら関係がないから、訴訟物としての特定がなく、かつ具体的な権利又は法律関係の確認を求めるものともいえない。

(三) 同三について

原告ら主張の各時間は、具体的行路において初めて現実的意味を有するものであり、その行路を特定しないで時間だけの指定を求める請求は、訴訟物の特定を欠く。

(四) 同四について

本請求は、五項で不作為の給付請求をしている権利関係と同一の権利関係についての確認を求めるものであるから、訴えの利益を欠く。

2  本件変更の不利益性について

本件変更は、乗務員の労働条件を不利益に変更するものではない。

(一) みなし労働時間の廃止について

(1) みなし労働時間の廃止は、単にその間を賃金支払の対象としないということに過ぎず、現実の労働強化を伴ったり、あるいは行先地における休息のための時間が削減されたりするものではない(行先地の時間の設定標準に変更はない。)。そして、賃金の目減り分については新たな賃金体系の導入によって補填されており、本件変更後の乗務員手当は、本件変更前の乗務員手当と超勤手当の合計手取額と同程度ないし若干上回るものとなっている。現に、被告の賃金総支給額は、平成四年から平成五年にかけて増加している。また、動力車乗務員については一継続乗務時間の短縮、深夜勤務回数の軽減、休養時間の改善等の措置を、列車乗務員については、一勤務の労働時間の制限の短縮、深夜勤務の制限、動力車乗務員と同様の在宅休養時間の改善等を施行しており、総合的に考察すれば本件変更は原告らに利益になるものである。したがって、本件変更は、何ら就業規則を不利益に変更するものではない。

(2) 乗務員の所定労働時間は、その時々の業務量及び要員数によって決定される乗務割交番によって定まるものであり、みなし労働時間を廃止するという就業規則上の労働時間の構成の変更が直ちに乗務員の現実の労働時間の変更を引き起こすものではない。したがって、労働時間の上限が拡大されるように見えるのは、本件改正の副次的効果に過ぎず、また、乗務割交番作成の時間的制限(上限)については、他の労働組合との間で、別に労働時間を短縮する旨の合意がされており、現実に労働時間が延長されることはない。実際にも、本件変更前後を比較すると、動力車乗務員の現実の一日当たり平均乗務時間は、本件変更前が四時間一八分であったのに対し、本件変更後は四時間一七分であり、短縮されている。

また、新規程によれば労働時間が七時間に満たないことになる運転区について、労働時間の増加があるとしても、それは他の区所との平準化を目的としたもので、七時間を大幅に超える区所では逆に労働時間が減少しているのであるから、全体として見れば労働者にとって不利益なものではない。また、乗務以外の「その他業務」を命ずることによって七時間を超える労働時間となった区所は例外的である。

したがって、本件変更が労働時間の延長をもたらすとする原告らの主張は理由がない。

(二) 一継続乗務キロの限度の延伸について

本件変更において、動力車乗務員の一継続乗務キロは延伸されたが、同時に一継続乗務時間の短縮が行われており、これを合わせ考慮すると、一継続乗務キロの延伸が乗務員にとって不利益なものであるとはいえない。

3  本件変更の合理性

仮に本件変更が就業規則の不利益変更に当たるとしても、本件変更は合理的なものであるから、原告らがその適用を拒絶することは許されない。

(一) 本件変更の目的

本件変更は、現在及び将来にわたる労働時間の短縮を展望し、乗務員の働きがいと効率性を追求する観点から、労働実態のある時間のみを労働時間として扱うとともに、国鉄時代から踏襲されてきた乗務員勤務制度に抜本的改革を加え、動力車乗務員と列車乗務員の勤務制度の統一を図ったものである。すなわち、従来の待合せ時間及び待合せ勤務時間は、労働実態のない時間であって労基法上の労働時間にあたらない行先地の時間の一部を、労働契約上の労働時間とみなして賃金支払の対象としてきたものであったが、将来の労働時間短縮を見据えると、労働実態のない時間を労働時間として換算する措置を継続することは、膨大な数の要員を必要とする事態を招来し、被告の経営体力に照らし到底不可能であるため、このような労働の実態のない時間を労働時間とみなす擬制的措置を廃止し、労働時間を実態に符合させるとともに、動力車乗務員と列車乗務員の勤務制度を同一のものとし、賃金制度については、これを乗務員勤務の特殊性を総合的に勘案した制度に改正したものである。このような改正は、被告の他の職場における取扱いとの均衡、公平にも資し、従業員間の公平を実現するものであり、JR他社においても共通して行われているものである。

(二) 労働時間の構成及び内容の変更の合理性

(1) 待合せ時間の廃止

待合せ時間を含む折返しの時間は、使用者の指揮監督下にある時間ではなく、乗務員は、制服着用義務がなく、また、原則として連絡業務も存在しないのであって、完全に労働から開放された自由に利用できる時間である。したがって、折返しの時間は、労基法上の労働時間ではなく、従来その一部をみなし労働時間としてきた趣旨は、行先地において復路の乗務に備える乗務員勤務の特殊性から、その一定部分を労働時間とみなすことにより、これを賃金支払の対象時間として賃金措置を講じることにあった。

しかしながら、このように労働実態がないにもかかわらず労働時間とみなすような擬制的措置を継続することは、将来の労働時間短縮を展望した場合合理的なものではない。また、労働実態のない時間に対する賃金支払を継続することは、被告の他の職場との均衡あるいは運転区所間の比較という観点から見た場合、従業員間の公平を欠く不合理なものである。したがって、みなし労働時間を廃止し、労働実態のある時間のみを労働時間と捉えることは、それ自体合理的な措置である。

原告らは、折返しの時間には、次の乗務に備えて労働契約上休息することが義務づけられているとか、連絡業務が存在するとか、旅客対応の義務がある等と主張し、これが労働契約上の義務の存在する時間であるとするが、その意味するところは明らかでない。また、休息はまさに休憩時間に行うべきことであるし、連絡業務は折返し準備時間内にあるのが通常であって、折返しの時間内には連絡業務は原則として存在せず、万一異常事態の発生等で連絡業務に従事すれば、超勤処理がされる。さらに、折返しの時間にたまたま乗客から問い合わせがあったときにこれに答えるべきことは、鉄道事業に従事する労働者として信義則上当然の義務であり、その可能性があるがゆえに折返しの時間が労働時間となるものではない。

なお、JR東日本における労働時間Bの制度は、超勤前提交番を組まないことにより必然的に生ずる各乗務員間の労働時間の差異を調整することを目的とするもので、原告らが主張するように待合せ時間の制度を継承したものではない。

(2) 準備時間及び折返し準備時間の積算方法の変更

準備時間及び折返し準備時間の積算方法の変更は、これを労働実態に合わせて細分化したものであって、合理的な措置というべきである。また、それでもなお五分単位に切上げているのであるから、突発的な乗客対応等にも十分対応が可能である。

(3) 待合せ勤務時間の廃止

待合せ勤務時間は、行先地の時間について、労働実態のある時間を超えて一律に労働時間とみなしていたものであって、待合せ時間と同様労働実態と符合せず不合理なものであったところ、本件変更は、これを労働実態に応じ、車掌業務に必要な時間を折返し準備時間及び看視時間として設定したものであって、合理的な措置というべきである。

(三) 一継続乗務キロの延伸の合理性

本件変更により、一般線区における動力車乗務員の一継続乗務キロが二二〇キロメートルから二四五キロメートルに延伸されたが、これは、一継続乗務時間の短縮を伴うものであるし、また、<1>ATSの機能向上、列車防護無線の整備、踏切の改良、列車無線の設置等保安設備の改良、<2>車両の改良による列車速度の向上等の措置を伴ったものであって、総合的に見れば、合理的なものである。また、二人乗務が一人乗務に変更されたとしても、運転士の負担がそれほど増大するわけではない。

(四) 賃金減額に対する代償措置

(1) みなし労働時間の廃止による賃金の減額については、従来の時間単位の乗務加給(新規程におけるA加給)の他に、乗務キロ数に応じた乗務加給であるB加給及び行先地における労働時間外の時間に対応する加給であるC加給を新設し、また、深夜額等にも変更を加え、全体として、旧ダイヤを前提とした場合に、本件変更後の乗務員手当が本件変更前の乗務員手当と超勤手当の合計額と同程度か、若干上回るようになるような代償措置を講じた。

その結果、原告らについて、旧ダイヤの乗務割交番に新規程と旧規程を適用し、両者の乗務員手当及び超勤手当の額を比較すると、すべての運転区所で新規程の方が多くなっている。また、(証拠略)は、旧ダイヤを前提に、被告の動力車乗務員の平均賃金を基礎に計算した場合の各区所における新旧両制度の乗務員手当及び超勤手当の合計額を比較したものであるが、これによると、賃金の補填率は全社平均で一〇七・一パーセントであって、新規程において賃金が増額されていることが明らかである。さらに、平成九年三月ダイヤに新旧両制度を適用してその乗務員手当と超勤手当の合計額を比較すると、大阪新幹線運転所を除き、新制度の方が高額となっている。

なお、被告の賃金の総支給額を比較すると、平成五年度は平成四年度を約八億五〇〇〇万円上回っており、これは、ベースアップ及び業務量の増大分を修正しても、約七億五〇〇〇万円の増加となる。これを、一人当たりの平均支給額で見れば、一万三八四一円の増加である。

ところで、新幹線運転所の賃金が減額になることがあるのは、新幹線の運転区は、他の運転区所に比べ、行先地の時間が長く乗務時間が短いため、旧制度においてはみなし労働時間が長くなっていたからであり、例外的なケースであって、新規程は、むしろ他の区所との均衡をもたらすものである。また、その他にも若干の区所において賃金が減額される場合があるとしても、結局のところ、乗務員の賃金は、その時々の現実の行路によって変化するのであって、たまたまある行路に乗務したときに賃金が減額になることがあるとしても、そのことにより本件変更の効力に影響を及ぼすものではない。

(2) 原告らは、ダイヤを改正し、労働時間を七時間に満つるまで増大させた場合には賃金が減少すると主張するが、これは全く仮定の議論であって、増大した労働時間が旧制度においてはみなし労働時間に吸収されることもあり得るし、新制度において七時間を超えて労働時間が増大した場合には、単価が増額された超勤手当が支給されるのであるから、かえって賃金が増額になることが予想される。平成九年三月ダイヤにおける比較でも新制度の方が賃金が高いことは原告らの予測が誤っていることを示すものである。

さらに、原告らは、ベースアップ等の影響を云々するが、このような不確定な要素を考慮するのは不当である。

(五) 他の労働条件の改善

被告は、本件変更において、以下に述べるような労働条件の改善を行っており、これらを併せ考慮すれば、本件変更は何ら不合理なものではない。

(1) 乗務行路作成上の改善

ア 一継続乗務時間の短縮

一般継続乗務時間については、一般線区関係については六時間を四時間に、都市圏通勤線区関係では三時間一五分を二時間五〇分に、新幹線関係では四時間二〇分を四時間にそれぞれ短縮する等の改善を加えた。

イ 深夜勤務の軽減

深夜勤務の回数が、列車乗務員に関して四週間に一〇回以下から九回以下に、動力車乗務員に関して三〇日に一〇回以下から四週間に九回以下に、それぞれ軽減された。

ウ 在宅休養時間の拡大

列車乗務員に関しては、特別休日前の勤務終了時刻と次の勤務開始時刻との間の時間について従来制限がなかったのを、三六時間を確保することに改善し、公休日と特別休日が連続している場合の公休日前の勤務終了時刻と特別休日後の勤務開始時刻との間の時間についても、従来制限されていなかったのであるが、六四時間を確保することとした。

エ 食事及び睡眠時間の配慮

食事及び睡眠のための時間を交番作成上配慮することとし、食事のための時間として概ね四〇分、睡眠のための時間として概ね五時間を目安として行先地の時間を確保することとした。

オ 列車乗務員の一勤務の労働時間の短縮

列車乗務員についての乗務割交番による一勤務の労働時間の制限を、一八時間から一六時間に短縮した。

(2) 休日の増加(平成九年新規程)

年間休日数を一〇四日から一一八日に増加させた。うち三日は、暫定的に労働日としているが、これも休日であり、休日出勤手当が支給される。

(六) 多数組合の同意

本件変更については、原告らが加入するJR西労は、当初から待合せ時間の廃止自体に反対である旨の頑迷な態度を固持し、被告の提案内容についての議論自体を拒否し続けているが、組合員有資格者の八八パーセントを組織する労働組合との間では、平成五年新規程の内容について合意が成立し、その旨の労働協約を締結し、大多数の従業員が新規程に従って平穏に勤務している。さらに、平成五年新規程を前提とし、その理念をさらに押し進めたものである平成九年新規程については、組合員有資格者の九一パーセントを組織する労働組合と合意に達している。

これらは、本件変更が大部分の従業員の支持を得ることのできる合理的なものであることを示している。

第三争点に対する当裁判所の判断

一  被告の本案前の主張について

1  原告らの請求一、二、六の各1について

被告は、原告らが引用する就業規則の規定(労働時間及び休日数に関する部分)が具体的就労内容に関するものではないとして、訴訟物の特定を欠くと主張する。確かに、前記前提事実のとおり、乗務員の具体的な労働時間は乗務割交番によって定まるもので、就業規則の労働時間等に関する定めが直接乗務員の具体的就労内容を決定するものではない。しかしながら、就業規則の休日数並びに労働時間の構成及び内容に関する規定は、乗務割交番作成にあたっての準則となってその内容を直接規定するものであり、就業規則所定の一日平均労働時間は、超勤時間の基準として、乗務員の賃金の額に直接影響を及ぼすものであるから、これら就業規則の規定は、原告らの労働条件について定めたものということができる。そして、本件変更の効力を争う場合に、個々の労働内容を特定して給付請求をすることは極めて煩雑であり、本件変更が無効である場合に、一般的に旧規程にのみ従って就労する義務があることを確認することは、紛争解決の実効性の観点からも是認することができる。したがって、本請求は、訴訟物の特定を欠くとはいえず、確認の利益を認めることができるというべきである。

2  原告らの請求一、二、六の各2について

原告らは、待合せ時間ないし待合せ勤務時間が労働契約上の労働時間であることの確認を求めるものであるが、原告らに旧規程にのみ従って就労する義務があることが確認されれば、重ねて待合せ時間ないし待合せ勤務時間が労働契約上の労働時間であることを確認する利益はないというべきであるから、本請求は不適法である。

3  原告らの請求三について

本請求は、いかなる給付を求めるものか不明であるうえに、前記前提事実によれば、原告らの具体的な労働時間は、具体的な乗務行路において指定されるものであるから、乗務行路を特定せずに、抽象的に待合せ時間等の指定を求める本請求は、訴訟物の特定を欠くものといわざるを得ず、不適法である。

4  原告らの請求四について

本請求は、原告らの請求五において不作為の給付を求める前提となる権利関係についての確認を求めるものであるから、訴えの利益を欠き、不適法である。

二  就業規則変更の不利益性(争点1)について

1  不利益性の判断対象

本件は、原告らが、平成五年新規程及び平成九年新規程が、旧規程を不利益に変更するものであるとして、本件変更の効力を争っている事案であるが、平成五年新規程は、平成九年新規程により既に効力を失っており、現に被告は原告らに対し、平成九年新規程に基づいた労働条件を適用しようとしているのであるから、現段階において平成五年新規程の不利益性を論ずる利益はない。けだし、平成五年新規程への変更が不利益変更として許されないとしても、平成九年新規程への変更が旧規程と比較して許されるものであれば、平成五年新規程の不利益性は解消されることになるからである。そこで、本件変更の不利益変更性の判断については、まず、旧規程と平成九年新規程を比較することになる。

2  労働時間の構成及び内容の変更による不利益性

(一) 認められる事実

前記前提事実に、当事者間に争いのない事実、証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(1) 本件変更は、動力車乗務員については、待合せ時間の制度、すなわち折返しの時間のうち一定の時間を労働時間とみなす制度を廃止するものであって、その結果、新規程では、動力車乗務員が同一の行路に従って業務に従事した場合であっても、旧規程よりも労働時間が短く計算されることになる。また、列車乗務員についても、待合せ勤務時間の制度、すなわち行先地の時間のうち当該時間及び行路に応じて算定される一定の時間を労働時間として指定する制度を廃止し、代わって、行先地の時間のうち現実に業務に従事する必要のある時間を、看視時間ないし折返し準備時間として設定したものであって、その結果、同一の行路に従って業務に従事した場合であっても、旧規程よりも労働時間が短く計算されることになる。

なお、乗務割交番作成規程に定められている行先地の設定標準は、旧規程及び平成九年新規程を通じて変化はなく、乗務員が一定の時間又はキロ数継続して乗務した後は、休息のために一定の行先地の時間を確保することとされている。

(2) 旧ダイヤにおける乗務割交番によれば、動力車乗務員の現実の一日平均労働時間は八時間一七分であり、一日平均四六分の超過勤務を前提とする交番が組まれていた。そして、動力車乗務員の右現実の一日平均労働時間の中で、待合せ時間は、一日平均一時間〇四分を占めていた。また、列車乗務員の現実の一日平均労働時間は八時間一二分であり、一日平均四一分の超過勤務を前提とする交番が組まれていた。

しかしながら、旧ダイヤにおける乗務割交番に新規程を適用して労働時間を計算すると、動力車乗務員の現実の一日平均労働時間は七時間〇三分となり、列車乗務員の現実の一日平均労働時間は七時間二五分となる。このように、労働時間が短く計算されるのは、動力車乗務員の場合は、待合せ時間の廃止、準備時間ないし折返し準備時間の積算方法の変化及び訓練時間の時間外処理によるものであり、列車乗務員の場合は、待合せ勤務時間が廃止され、その一部が看視時間ないし折返し準備時間に置き換えられたことによるものである。

(3) 原告らが本訴提起時に所属していた各区所(以下「原告ら所属の各区所」という。)につき、旧ダイヤにおける乗務割交番に旧規程及び新規程を適用して労働時間を計算すると、次のとおりとなる(なお、旧規程による労働時間には訓練時間が一日平均五分含まれるが、新規程による労働時間には訓練時間は含まれない。)。これによれば、淀川電車区、小浜鉄道部、紀伊田辺運転区、米子運転所、大阪新幹線運転所及び加古川鉄道部(車掌)においては、新規程によって計算した場合、就業規則所定の一日平均労働時間である七時間に満たないこととなった。

<省略>

(4) 本件変更直前の平成四年四月一日から平成一〇年四月一日までの、それぞれのダイヤにおける被告の全区所の乗務員の現実の一日平均労働時間の推移は、次のとおりである。なお、労働日二六一日換算とは、平成九年三月以降は休日数が変化していることから、比較のためそれ以前の労働日に換算した数値である。

【動力車乗務員】

<省略>

【列車乗務員】

<省略>

(5) 原告ら所属の各区所について、旧ダイヤ及び平成九年三月ダイヤにおける労働時間、拘束時間、乗務時間及び乗務キロ(いずれも、当該区所に適用されている乗務割交番による一人当たりの平均値であり、訓練時間を含まない数値である。)を比較すると、別表1のとおりである。

(二) 見かけ上の労働時間の減少に伴う不利益

以上によれば、同一の労働を行った場合であっても、新規程によれば、みなし労働時間等が労働時間として評価されないことから、旧規程よりも少ない労働時間として評価されることになり、見かけ上労働時間が減少することが認められる。このように、本件変更は、労働の実態に変化がないにもかかわらず、見かけ上の労働時間を減少させるものであって、これにより、原告ら乗務員は、次のような不利益を被るということができる。

(1) 賃金支払の対象となる時間の減少

前記のとおり、動力車乗務員が旧ダイヤに基づく乗務割交番に従って労働した場合、旧規程によれば、八時間一七分の労働と評価され、四六分の超過勤務をしたものとして取り扱われるにもかかわらず、平成九年新規程によれば、これと全く同一の労働を行った場合であっても、就業規則所定の一日平均労働時間内の勤務と評価され、超勤時間が消滅するのであって、本件変更は、超過勤務手当の減少という賃金面の不利益をもたらすものである。そして、列車乗務員の場合も、同様の現象が生じることが認められるのであって、本件変更は、乗務員について、賃金上の不利益を及ぼすものであると認められる。

このことは、原告ら所属の各区所ごとについて見た場合も同様であり、前記認定によれば、大部分の区所において、旧規程によれば相当時間の超過勤務をしたものとして取り扱われる乗務割交番であっても、平成九年新規程により計算すると、就業規則所定の一日平均労働時間内の労働として評価され、超勤時間が消滅することが認められる。

なお、被告は、この点につき、新たな賃金体系の導入により、賃金は減少しておらず全く不利益が生じないと主張するが、新たな賃金体系の導入等による賃金の補填措置は、本件変更の合理性の判断要素として考慮すべき事項であると考えられる。

(2) 乗務割交番作成の上限の拡大

乗務割交番は、旧規程においては、就業規則所定の一日平均労働時間を超え、四週間を平均して一週間四六時間の範囲内で作成されるものとされていたのに対し、平成九年新規程においては、就業規則所定の一日平均労働時間を超え、一か月を平均して一週間四〇時間の範囲内で作成されるものとなった。

ところで、旧ダイヤにおける動力車乗務員の現実の一日平均労働時間は、旧規程によって計算すれば八時間一七分となるところ、新規程によれば七時間〇三分となるのであるから、新規程は、平均的に見ると、旧規程による労働時間の八五・一一パーセントを労働時間として評価する制度であるということができる。このことは、旧ダイヤについて、原告ら所属の各区所において新旧両規程を適用して現実の一日平均労働時間を計算した結果を比較しても、各区所による上下はあるが、おおむね右割合に合致していること(前記(一)(3))、(証拠略)によれば、平成九年三月ダイヤに新旧両規程を適用して現実の一日平均労働時間を計算した場合もおおむね右割合に合致していることからも裏付けられるところである。とすれば、旧規程における乗務割交番作成の上限である一週間四六時間は、新規程で計算すれば、約三九時間〇九分に相当するから、平成九年新規程における乗務割交番の上限である一週間四〇時間は、旧規程における乗務割交番作成の上限を一週間あたり約五一分延長するものであると評価することができる。これを年間で比較すると、旧規程では、年間総労働時間が二三九八時間三四分を上限とする乗務割交番が作成可能であったところ、これは、新規程による計算方法に換算すれば約二〇四一時間二五分に相当し、平成九年新規程は、年間二〇八五時間三六分を上限とする乗務割交番の作成を可能とするものであるから、やはり乗務割交番作成の上限を年間約四四時間延長するものであると評価することができる。一方、列車乗務員についてはこのような事情は認められない。なお、この点につき、原告らは、平成二年一一月一九日の西労組と被告との間における議事録確認において、週四二時間台となるように乗務割交番を作成する旨の合意が成立したことを根拠に、旧規程における乗務割交番作成の上限が週四二時間台〔年間二二四二時間〇八分未満、新規程に換算すれば年間一九〇八時間一七分未満〕となると主張するが、(証拠略)によれば、右議事録確認は、原告らの所属するJR西労は承継していないことが認められるから、原告らの主張は採用できない。

(三) 原告らの主張する労働時間の延長等について

原告らは、本件変更が、<1>乗務員の所定労働時間を延長するものである、<2>就業規則所定の一日平均労働時間に満たない区所における労働時間を引き上げるものである、<3>労働時間、乗務時間、乗務キロ、拘束時間、深夜時間等の延長、異職種労働の導入などをもたらし、乗務員の労働を強化するものである、と主張し、これらが本件変更による労働条件の不利益変更にあたるとの主張をしている。しかしながら、原告らの右主張は以下の理由で採用できない。

(1) 所定労働時間の延長

原告らが主張する所定労働時間とは、就業規則所定の一日平均労働時間のことであり、これは、超勤前提交番制度が採用されている被告においては、乗務割交番作成に当たっての最下限及び超勤手当算定の基準となるに過ぎないものであって、現実の労働時間を規定するものではない。したがって、旧規程における就業規則所定の一日平均労働時間である七時間三一分の八五・一一パーセントにあたる六時間二四分と平成九年新規程の就業規則所定の一日平均労働時間である七時間一〇分を比較し、所定労働時間が延長されたとする原告らの主張は採用することができない。

もっとも、旧ダイヤにおける動力車乗務員の現実の一日平均労働時間は八時間一七分であったところ、これを新規程で計算すると七時間〇三分となるのであるから、平成九年新規程において一日平均労働時間を七時間一〇分と設定したことにより、一見現実の労働時間(乗務割交番によって指定される労働時間)が少なくとも七分間増加するように見える。しかしながら、現実の一日平均労働時間は、ダイヤ編成及びこれに基づいて作成される乗務割交番の内容によって定まるものであって、就業規則によって定まるものではない(就業規則は、乗務割交番作成の下限と上限を定めているに過ぎない。)から、旧ダイヤにおいて現実の一日平均労働時間が八時間一七分であったというのも、当時のダイヤ編成がたまたまそのようになっていたことによるに過ぎないのであって、旧規程によって定められていたものではない。したがって、仮に平成九年新規程における就業規則所定の一日平均労働時間が実質的に旧ダイヤにおける現実の一日平均労働時間よりも長く設定されたとしても、これが就業規則を不利益に変更するものであるということはできない。

なお、旧規程においては行先地の時間から労働時間を除いた時間の全部又は一部が旧規程所定の労働時間となる関係で、行先地の時間が長くなるダイヤ編成には限界が存在したが、新規程ではその限界がなくなり、その意味でダイヤ編成の容易さが増したといえるが、前述の旧ダイヤにおける現実の労働時間をみても、限度一杯のダイヤ編成がされていたわけでもないので、この点は不利益変更と目するほどのものでもない。

(2) 就業規則所定の一日平均労働時間に満たない区所における労働時間の引き上げ

前記のとおり、本件変更によって見かけ上の労働時間が減少するため、原告らの所属する区所のうち、六カ所については、旧ダイヤに新規程を適用した場合に労働時間が七時間を切ることとなった。そして、証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨によれば、かかる区所においては、労働時間が七時間を超えるように行路の組み替えや、乗務労働以外の異職種労働の付加が行われたことが認められ、現実にも、平成九年三月ダイヤを見ると、右区所の労働時間はすべて七時間を超えており、特に、紀伊田辺運転区及び大阪新幹線運転所においては、旧ダイヤに比べ労働時間の増加幅はかなり大きい。その意味では、右六区所においては、本件変更以降、実質的に労働時間が延長されたと(ママ)ものといえ、この労働時間の延長は、右のような経緯に鑑みれば、本件変更を契機としてもたらされたものといえる。

しかしながら、前述したとおり、新旧両制度を通じ、乗務員の現実の労働時間は被告が作成する乗務割交番によって指定されるもので、この乗務割交番の内容は、就業規則及び乗務割交番作成規程に従ったものである限り、広く被告の裁量に委ねられていたものである。そして、従来より、就業規則が乗務割交番作成の下限及び上限を定め、乗務割交番作成規程が一勤務の時間的制限や一継続乗務時間及びキロ、行先地の時間の設定標準等を定めているほかは、乗務行路及び乗務割交番をどのようなものとするかは、各ダイヤにおける列車本数や要員数に応じ、被告が裁量によって定めていたものである。かかる見地からすると、旧ダイヤに新規程を適用した場合に、ある区所において労働時間が七時間を切るという現象が見られたとしても、それは、たまたま旧ダイヤにおいて、当該区所で行先地の時間の長い乗務割交番が作成されていた等の理由により、かかる現象が生じたに過ぎないものと考えられる。したがって、当該区所について、その後のダイヤ改正の機会に乗務時間等の労働時間が延長されたとしても、これは、本件変更を契機として行われたものであるとはいえても、あくまで被告の裁量の範囲内において行われる乗務割交番作成の結果であり、本件変更によってこれが可能になったものではないから、これが本件変更による労働条件の不利益変更であるということはできない。

(3) 労働の強化

原告らは、みなし労働時間の廃止により、労働時間、乗務時間、乗務キロ、拘束時間、深夜時間等が延長され、異職種労働が導入されるなど、乗務員の労働が著しく強化されたと主張する。しかしながら、みなし労働時間の廃止それ自体は、労働時間の計算方法を変更するに過ぎず、直ちに労働実態に影響を及ぼすものではないし、本件変更の前後において、乗務割交番作成規程の行先地の時間の設定標準には変化がないのであるから、待合せ時間及び待合せ勤務時間の制度が廃止されたからといって、行先地の時間を短縮して乗務時間等の実労働時間を増加させることができるわけではなく(なお、それが可能な場合には、旧規程においても同様の措置が可能であったことになる。なお、この点につき、原告らは、旧規程の下では待合せ時間に異職種労働が指定されることはなかった旨の主張もするが、<人証略>の供述に照らし採用できない。)、みなし労働時間の廃止が直ちに乗務時間の延長や実質的な労働強化をもたらすものとはいえない。したがって、旧ダイヤに基づく乗務割交番とそれ以降の乗務割交番を比較したときに、労働時間等が増大しているとしても、これは、ダイヤ編成及び乗務割交番作成によってもたらされたものであって、本件変更によるものであるとは認められない。

また、前記認定にかかる乗務員の労働時間の推移を見ても、乗務員全体の平均で見る限り、列車乗務員の現実の一日平均労働時間は、本件変更によっても実質的に増加しておらず、かえって、平成五年四月以降は減少していること、動力車乗務員の現実の一日平均労働時間は、平成七年以降増加の傾向にあるが、その増加の程度は一日あたり四ないし五分程度であって、大きなものではないこと、原告ら所属の各区所についてみても、岡山車掌区及び小浜鉄道部においては、年間労働時間、年間拘束時間、年間乗務時間及び年間乗務キロがすべて減少しており、その他の区所も、年間労働時間、年間拘束時間、年間乗務時間及び年間乗務キロがすべて増加しているもの(淀川〔京橋〕電車区)、労働時間は増加しているが拘束時間は減少しているもの(加古川鉄道部車掌、紀伊田辺運転区、米子運転所、大阪新幹線運転所)、その逆のもの(加古川鉄道部運転士)、労働時間及び拘束時間は増加しているが乗務時間は減少しているもの(下関運転所〔下関乗務員センター〕、福知山運転所)など、区所によりまちまちであり、一定の法則性はみられないのであって、結局のところ、原告が労働強化であると主張する事象は、いずれも本件変更と関連するものであるとは認め難い。確かに、新幹線運転所において乗務時間や乗務キロは顕著に増大しており、同区所が旧ダイヤに新規程を適用した場合に労働時間が七時間を大幅に割っていたことを考慮すると、これが本件変更を契機としてもたらされた面があることは否定できないけれども、(証拠略)及び原告山下本人によれば、これはのぞみやひかりの増発というダイヤ編成の結果であることが認められ、みなし労働時間の廃止によって初めて可能となったものとは認められない。

なお、証拠(<証拠・人証略>)によれば、被告の新幹線運転所の動力車乗務員の労働時間、乗務時間、乗務キロ等は、JR東日本及び東海旅客鉄道株式会社と比べ相当長いことが認められるが、他社と差が生じたのが本件変更によるものであるかどうかは不明であるし、特にJR東日本との間で差があるのは、労働時間の算定方法の違いというよりは、超勤前提交番を維持しているかどうかが主な要因であると推認されるから、これらの現象が本件変更により生じたものとも認め難い。

さらに、原告らは、異職種労働の導入やワンマン運転の増加等についても、本件変更によってもたらされた労働強化であると主張するが、証拠(<証拠・人証略>)によれば、これらは本件変更前から行われていたことであることが認められ、仮にその頻度が増大したとしても、これが本件変更によって可能になったものとは認められない。新幹線運転所における広島段落としの廃止についても、同様である。

3  一勤務の労働時間の制限の緩和

平成九年新規程(乗務割交番作成規程)は、動力車乗務員の一勤務の労働時間の制限について、従来は待合せ時間を除き一六時間(深夜帯の乗務時間二時間を含む場合は一四時間)であったものを、二暦日にわたる乗務行路については一八時間(深夜帯の乗務時間二時間を含む場合は一六時間)に緩和したものであるが、右は、動力車乗務員の一勤務の労働時間の制限を、二暦日にわたる乗務行路については二時間延長するものである。そして、証拠(<証拠・人証略>)によれば、現実にも平成九年三月ダイヤにおいては、二暦日にわたる乗務行路の一勤務の労働時間が一六時間を超えているものが少なからず存在することが認められるから、本件変更により、一勤務の労働時間の延長が現実化していることが認められる。

したがって、平成九年新規程による一勤務の労働時間の制限の緩和は、動力車乗務員の労働条件を不利益に変更するものである。

4  一継続乗務キロの限度の延伸

一継続乗務キロの限度は、就業規則の性質を有する乗務割交番作成規程において明示されているものであるから、これを延伸することは、それ自体労働条件を不利益に変更するものであるということができる。また、(人証略)によれば、この延伸によって、下関運転所においては、従来は二人乗務であった下関・広島間のブルートレインの運転が、一人乗務となったこと、米原・富山間も一人乗務で通し勤務が可能になったことが認められるが、このように、本件変更は、従来は二人で行っていた乗務労働を一人で行うことを可能にするもので、かかる見地からも、動力車乗務員にとって労働条件を不利益に変更するものである。

5  混行路、混運用

原告らは、混行路、混運用の導入が本件変更に伴う労働条件の不利益変更であると主張し、(証拠略)によれば、平成五年新規程(乗務割交番作成規程)において、列車乗務員と動力車乗務員の相互運用が初めて明文化されたことが認められる。しかしながら、(証拠略)によれば、もともと運転士兼車掌としての職務を指定されることはあったことが認められ、混行路及び混運用は全く新たな内容の労働を課するものではないことを考慮すると、これによりいかなる法的不利益が生ずるのか明らかでない。また、そもそも旧規程においてそのような運用が禁止されていたのかどうかも不明である。したがって、混行路及び混運用の導入が乗務員の労働条件を不利益に変更するものであると認めるには足りない。

6  結論

以上のとおり、本件変更は、<1>みなし労働時間を廃止して見かけ上の労働時間を減少させることにより、従来は超過勤務として超勤手当等の支給対象となっていた時間を労働時間と評価しないこととなって、そのかぎりで賃金を減少させるとともに、乗務割交番作成の上限を実質的に拡大するものであること、<2>動力車乗務員の二暦日にわたる一勤務の労働時間の制限を緩和するものであること、<3>動力車乗務員の一継続乗務キロの限度を延伸し、従来は二人乗務であった区間において一人乗務を可能にするものであることの三点において、旧規程における乗務員の労働条件を不利益に変更するものである。

三  不利益変更の合理性(争点2)について

1  就業規則の不利益変更の効力

以上のとおり、本件変更は乗務員の労働条件を不利益に変更するものであるというべきところ、就業規則を労働者の同意なく不利益に変更することは、原則として許されないけれども、当該変更が、その必要性及び内容の両面から見て、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における法的規範性を是認できるだけの合理性を有する場合には、就業規則を不利益に変更することも許され、個々の労働者において、これに同意しないことを理由としてその適用を拒否することはできないと解される。

そこで、以下本件変更の合理性の有無について検討を加える。

2  本件変更に至る経緯及び背景事情証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 乗務員労働に必然的に生じる行先地の時間の一定部分を労働時間(作業時間)とみなす制度は、国鉄時代である昭和二四年に制定された内達一号における労働時間の換算制度によって制度化されたものであるが、その後、昭和六〇年に行われた動力車乗務員勤務制度改正によって、旧規程とほぼ同一の内容であるみなし労働時間制度に整備され、これが、昭和六二年の国鉄民営化後も、基本的に被告を含むJR各社において引き継がれていた。

(二) 被告においては、従来より労使間で乗務員の労働時間の短縮が課題となっており、労働組合は、年間総労働時間を一八〇〇時間台とすることを要求していた。また、平成五年四月の労基法の改正により、近い将来法定労働時間が週四〇時間となることが予定されていた。このような状況下において、みなし労働時間を含んだ労働時間の算定方法を維持していたのでは、労働時間を週四〇時間とし、また、年間総労働時間を一八〇〇時間台とすることは、困難が予想されたことから、被告は、平成四年三月にJR東日本においてみなし労働時間を廃止する乗務員勤務制度の改正が行われたことをも踏まえ、みなし労働時間を廃止し、労働実態のある時間のみを労働時間と捉える乗務員勤務制度の改正を検討するに至った。

(三) 被告は、平成四年九月二一日、各労働組合に対し本件変更を提案したが、JR西労は、当初提案を受けること自体を拒否し、その後提案は受けたものの、待合せ時間及び待合せ勤務時間の廃止に強く反対し、同年一〇月ないし一二月の間に九回にわたり開催された団交は、もっぱらJR西労から出された解明要求に被告が回答することに終始し、実質的な交渉に入ることができなかった。被告は、同年一二月一日、各組合に対し、賃金制度に関する交渉を申し入れたが、JR西労はこれを拒否し、また、被告が、同月一七日、各組合との間で平成五年三月のダイヤ改正に関する経営協議会を開催した際にも、JR西労はこれへの参加を拒否した。JR西労は、その後も、同年一二月にストライキを実施するなどして、待合せ時間及び待合せ勤務時間の廃止に反対する闘争を繰り広げた。

(四) 一方、被告は、西労組、国労、全動労との間では、平成四年一〇月中旬ころ以降、本件変更に関する団体交渉を重ね、西労組は、同年一二月四日、本件変更に同意し、被告との間で乗務員勤務制度の改正に関する協定を締結した。また、国労は平成五年二月二三日、全動労は同年三月一八日にそれぞれ本件変更に同意し、被告との間で、乗務員勤務制度の改正に関する協定を締結した。しかしながら、JR西労は、あくまで待合せ時間及び待合せ勤務時間の廃止に反対する態度を変えず、本件変更に同意せず、同年三月一六日からは、指名ストライキに突入した。このような状況の下、被告は、同月一八日、JR西労の同意を得られないまま、本件変更を実施した。

なお、JR西労からは、その後JR西日本米子地方労働組合及びJR西日本近畿地方労働組合が分裂したが、右二組合は、いずれもその後本件変更に同意し、JR西日本米子地方労働組合は平成五年九月、JR西日本近畿地方労働組合は平成六年七月、被告との間で乗務員勤務制度の改正に関する協定を締結した。

(五) 平成七年八月一日現在のJR西労の組合員数は、約二八四〇名であり、被告の全従業員中の組織率は六パーセントであるが、乗務員について見ると約二二パーセント、動力車乗務員について見ると約四〇パーセントである。もっとも、本件変更が行われた平成五年三月当時は、動力車乗務員の約六一パーセントをJR西労が組織していた。

3  労働時間の構成及び内容の変更の合理性

(一) 待合せ時間及び待合せ勤務時間の労働実態

(1) 証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

ア 運転士は、行先地において、乗務労働終了後、列車を次の運転士に引き継ぐ場合には、折返し準備時間内に、次の運転士への引継、見送り、詰所への移動及び点呼(指定されている場合)を行い、列車を引き継がない場合には、入区及び車両点検を行い、到着点呼を受ける。その後、次の乗務前の折返し準備時間までの間(折返しの時間)は、自由に過ごすことができ、通常は、乗務員詰所において休息したり、食事を取ったり、仮眠するなどする。なお、就業規則上施設外に出る場合は許可を得るものとされているが、食事のために外出することは、特に許可を得なくとも許されていた。なお、折返しの時間においては、乗務員は、寝るときを除き、事実上制服を着たまま過ごすのが通例であったが、制服を着用しなければならないとの指示があったわけではない。

また、折返しの時間に余裕がある場合には、規程類の訂正等各自が行うべき事務作業を行う場合があるほか、給与通知、制服・制帽の貸与手続、勤務変更に伴う確認印の作業などの事務手続が行われることがあるが、規程類の訂正は年二、三回から九回程度であり、右事務手続も頻繁に行われるものではなく、作業自体もごく短時間で終了するものである。また、列車が遅延した場合などには、電話による連絡業務が行われることがあるほか、遺失物の取扱い等の処置が折返しの時間に行われることもある。さらに、折返しの時間であっても、運転士が乗客から問い合わせを受けて案内することがあるが、これは、運転士が乗務終了後又は次の乗務のためにホームを歩いている際や食事に出るために駅構内を歩いている場合などに見られ、詰所にいる間に案内業務が行われることはない。

なお、旧制度においては、折返しの時間のうち一定時間が待合せ時間として行路表に指定されていたが、待合せ時間内とそれ以外の時間とで運転士の過ごし方に違いがあるわけではなかった。また、旧制度においては、連絡業務、案内業務、遺失物処理等が待合せ時間外に行われても、超勤処理されることは事実上なかったが、新制度においては、折返しの時間にこれら業務が行われた場合には、超勤処理されることが前提となっている。

イ 車掌は、行先地において、乗務終了後、車内補充券発行の後点検、売上金の点検、釣銭準備、遺失物の駅への引き継ぎ、列車乗車人員の報告その他打ち合わせ等の業務を行うが、その後は、次の乗務前の準備時間まで、乗務員詰所等において自由に過ごすことができる。従来の待合せ勤務時間は、行先地の時間に応じて機械的に決められていたため、必ずしも右のような業務を行う時間に対応していたわけではなかった。

なお、右のような業務以外に、行先地においては、乗客対応をすることもあるが、これは、主として、列車と詰所の間を移動しているときに生じるものであり、新制度では折返し準備時間内に行われることが多い。

(2) 以上によれば、動力車乗務員については、待合せ時間を含む折返しの時間は、被告の拘束下にある時間であるけれども、業務に従事する義務がなく、自由に過ごすことのできる時間であって、労基法にいう労働時間ではないというべきである。

また、列車乗務員についても、行先地の時間のうち業務に従事することが義務づけられている時間を除いた時間は、動力車乗務員と同様に、業務に従事する義務がなく、自由に過ごすことのできる時間であって、やはり労基法にいう労働時間であるとはいえない。

(二) JR他社における待合せ時間及び待合せ勤務時間の取扱い

(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) JR東日本では、平成四年三月に乗務員勤務制度の大幅改正が行われ、これにより、動力車乗務員と列車乗務員の勤務制度が統一されるとともに、待合せ時間及び待合せ勤務時間の制度が廃止された。また、超勤前提交番制度が廃止され、乗務割交番の一循環の労働時間が就業規則所定の一日平均労働時間である七時間一〇分に等しくなるように乗務割交番を作成するものとされ、労働時間は、乗務時間等の実労働時間(労働時間A)と、あらかじめ作業が計画されていない時間であるが、列車の遅延等の場合は対応する時間として運用行路表に指定される労働時間Bによって構成するものとされた。なお、準備時間及び整理時間(これらは、被告における準備時間及び折返し準備時間に対応するものである。)並びに折返し時間(これは、被告における列車乗務員の折返し準備時間に対応するものである。)は、通常の作業実態に応じて算定のうえ運用行路表に指定するものとされる。

(2) その他のJR各社についても、平成六年四月までに、JR北海道を除くすべての会社で、待合せ時間の制度の廃止を内容とする乗務員勤務制度の改正が行われた。

(三) 待合せ時間及び待合せ勤務時間廃止の合理性

(1) 以上によれば、待合せ時間の制度は、労基法上は労働時間とはいえない時間のうち一定の時間を労働時間とみなすことにより、その時間を賃金支払の対象としていた制度であるということができ、待合せ勤務時間の制度も、労働時間とはいえない時間も含め一律に労働時間を指定していた制度であって、待合せ時間の制度と同様の性格を有するものであったということができる。したがって、待合せ時間の制度を廃止すること及び待合せ勤務時間を廃止し、代わって労働実態に合わせて積算した看視時間及び折返し準備時間を設定することは、いずれも労働実態のある時間のみを労働時間と捉えようとするものであって、それ自体は何ら不合理なものではない。そして、労基法に定める法定労働時間は、労基法上の労働時間(労働実態のある時間)を前提とした時間であることはいうまでもないから、労働実態のない時間をも労働時間に組み込む旧制度は、労基法上の労働時間概念に対応していないのであって、この制度を維持していたのでは、法定労働時間の短縮への対応について、他の従業員との間に不公平が生じるなどの無理が生ずることは容易に想像し得るところであり、被告が、労働実態のある時間、すなわち労基法上の労働時間のみを労働時間とすることによって、労働時間の内容を労基法のそれと同一のものとし、今後の労働時間の短縮に対応しようとしたことは、正当な目的に基づくものであって、その必要性を肯定することができる。

もっとも、かかる必要性は、あくまで労働時間の概念を労基法上の労働時間概念に対応させるという目的の限りにおいて認められるものであるから、これによってかえって労働時間を延長することは許されないというべきであるし、また、みなし労働時間の廃止は、見かけ上の労働時間を減少させることにより、当然に賃金の減額をもたらすものであるが、本件においては、乗務員の賃金を減額しなければならない事情は全く窺われないから、賃金について十分な補填措置が講じられる必要がある。かかる見地から見ると、本件変更が、動力車乗務員について乗務割交番作成の上限を実質的に延長する結果となることは、右必要性の範囲を超えるものである。しかしながら、被告においては、具体的な労働時間は列車ダイヤに基づいて作成される乗務割交番によって定まるのであるから、本件変更により、実質的に乗務割交番作成の上限が拡大されたとしても、右は、労働時間が延長される可能性があるというにとどまり、いわば抽象的な不利益に過ぎない。そして、別表1によると、原告ら所属の各区所における年間平均労働時間は、一八〇〇時間ないし一九〇四時間の範囲内であって、前記のような乗務割交番作成の上限の拡大による不利益が現実化している区所は存在せず、他にかかる不利益が現実化している区所が存在することを認めるに足りる証拠もない。このように、本件変更は、乗務割交番作成の上限を拡大するという点で動力車乗務員に不利益なものではあるけれども、その不利益は抽象的なものであって、いまだ現実化していないということができる。そして、各区所の現実の一日平均労働時間の状況から見て、その現実化の可能性も認められないから、右不利益の存在のみをもって、本件変更の効力を否定すべきではない。また、前記認定によれば、乗務員の労働時間は、本件変更以降実質的に見ると必ずしも減少しているとはいい難く、かえって増加している部分もあり、本件変更が労働時間の短縮につながっているとは評価できない面もあるけれども、これは、本件変更後のダイヤ編成及び乗務割交番作成の運用の問題であって、待合せ時間及び待合せ勤務時間の廃止とは直接の関連性はないと考えられ、このことにより本件変更の合理性自体が否定されるものではない。

したがって、待合せ時間及び待合せ勤務時間の廃止は、これによる賃金の減額が補填される限り、その合理性を肯定することができる(賃金については、後に検討する。)。

(2) これに対し、原告らは、待合せ時間及び待合せ勤務時間は、次の乗務に備えて休息することが義務づけられている時間であるとともに、連絡業務や旅客案内業務等に従事することもあり、手待時間的な要素を有する時間であって、労働契約上の義務の存在する時間であるから、これを廃止することに合理性がない旨主張する。しかしながら、次の乗務に備えて休息することが不可欠であるからといって、休息の時間を労働時間として取り扱わなければならないものではない。また、手待時間とは、使用者の指揮監督下にあって、指示があれば直ちに業務に従事する義務があり、労働者が常に待機しなければならない時間をいうところ、折返しの時間においては、原則として業務指示がなされることはなく、食事等のために外出したり、睡眠をとることも許されているのであるから、これを手待時間と同視することはできない。もっとも、折返しの時間に連絡業務や旅客対応が行われることがあることは、前記認定のとおりであるが、これは鉄道業務の性質上やむを得ないものであると考えられ、その頻度も頻繁なものではなく、突発的に生ずるもので、常に連絡業務や旅客対応のために待機することが求められているとは認められないから、連絡業務や旅客対応の可能性があるからといって、折返しの時間が労働時間性を帯びるものではない。また、仮にかかる業務が突発的に生じた場合には、超勤処理になじむものである。したがって、原告らの右主張は採用できない。

なお、(証拠略)によれば、被告は、博多新幹線運転所において、「出場遅延防止対策について」と題する掲示をし、折返しの時間の過ごし方について、「食後一時間は畳の上に上がらないことを基本とする。満腹で横になると眠くなるため。」「畳の上で横にならない過ごし方を工夫する。」との指導を行っていることが認められる。しかしながら、右文面の内容及び(人証略)によれば、これは、出場遅延事故が頻発したことから、折返しの時間の過ごし方について一定の指導、助言をしたものと考えられ、一般的に折返しの時間の過ごし方を規制したものとはいえない。このことは、岡山車掌区の畳が平成一〇年四月に撤去されたこと(この事実は、<証拠略>により認められる。)についても同様である。また、(証拠・人証略)によれば、岡山駅では、被告は、旅客に対するサービス向上のため、積極的に旅客対応すべきことを提案していることが認められるが、(人証略)によれば、これは、折返しの時間に休息している乗務員にまで適用されるものではなく、旅客案内等を実際に行った場合には、超勤処理されることが前提となっていることが認められる。また、(証拠略)、原告盛重本人によれば、列車乗務員の乗継詰所における服装、喫煙、態度等が被告によるチェック項目としてあげられていることが認められるが、これは、モラルの問題であって、あくまで乗客の目に入る場所において一定の規制を加えたものに過ぎないものと考えられる。さらに、原告盛重本人によれば、下関乗務員センターの車掌が行先地である東京で次の乗務までの間を過ごす際、乗務員宿泊所から出るときは下関乗務員センターの上司に許可を取るようにとの指導がされていることが認められるけれども、同人の供述によれば、これは宿泊所でトラブルが生じたことがあったことによる特殊な事情によるものと認められる。

したがって、これらの事情は、いずれも前記認定を左右するものではない。

(3) また、原告らは、列車乗務員について、看視時間や折返し準備時間ではない行先地の時間においても労働を命ぜられる場合があるから、待合せ勤務時間を廃止することが不合理であるとも主張する。

確かに、証拠(<証拠・人証略>)によれば、車掌は、無人駅において列車を待合せる場合は、列車内に待機し、列車を看視したり乗客と対応したりすることがあること、加古川鉄道部において、車掌が無人駅の券売機の売上金の集金、保管を命じられることがあるが、駅社員が無人駅において売上金を集金した場合には、これを保管している時間がすべて労働時間であるにもかかわらず、車掌の場合は右公金を保管する時間がすべて労働時間として取り扱われているわけではないことが認められる。しかしながら、(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、無人駅において列車を看視する業務は運転士に指定されている場合があること、駅社員と車掌とではその業務内容は必ずしも同じではないことが認められるから、車掌の無人駅における待合せの時間がすべて労働時間であるとはいえないし、仮に労働時間性を有するとしても、それは、乗務員詰所のない無人駅に特有の現象であって一般的な現象ではないと考えられるから、当該乗務行路表における労働時間の指定が不適切であるというにとどまるものである。また、(人証略)によれば、そもそも公金を労働時間でない時間に保管することは、旧制度においてもあり得たことが認められる。したがって、これらの事実が認められるからといって、待合せ勤務時間を廃止することが不合理であるとはいえない。

(4) さらに、原告らは、待合せ時間又は待合せ勤務時間の廃止により、行先地において、労働時間と認められない時間(ノーペイの時間)が数分程度のごく短時間になる場合が生じるとして、かかる短時間を自由時間と見るのは不合理であると主張する。確かに、かかる短時間の自由時間を指定することに合理性があるかどうかは疑問であるが、かかる現象は、旧制度においても生じ得たものであるから、これが本件変更によってもたらされた現象であるとはいえない。

(四) 準備時間及び折り返し準備時間の内容の変更について

前記前提事実及び証拠(<証拠・人証略>)によれば、旧制度においては、準備時間の最下限が二五分とされていたため、実際にはそれ以下の作業時間しかない場合であっても労働時間として二五分が計上されていたこと、本件変更によって、準備時間及び折返し準備時間は、当該時間に行うべきこととされている作業の現実の所要時間を実測し、その時間を五分毎に切り上げて指定することとされたことが認められる。

以上によれば、従来は労働実態の有無にかかわらず最低二五分の時間が労働時間とされていたものが、一〇分を下限として労働実態に合わせて積算し直されたものに過ぎないというべきであり、その変更は合理的なものであるということができる(なお、これにより見かけ上の労働時間が減少して賃金の減少が生じる可能性があるが、この点については、賃金の減少に対する補填措置が講じられているかどうかを検討すれば足りる。)。

(五) 賃金面における不利益について

以上のとおり、待合せ時間及び待合せ勤務時間の制度を廃止すること、準備時間及び折返し準備時間の内容を変更することは、いずれもそれによる賃金の減少が補填される限り、その合理性を肯定することができるというべきであるので、本件変更に伴う賃金規程の変更によって、みなし労働時間の廃止による賃金の減少が補填されているかどうかを検討する。ところで、賃金の減少が補填されているか否かは、同一の労働を前提として比較すべきであるから、本件では、旧ダイヤと平成九年三月ダイヤのそれぞれについて、新旧両規程を適用した場合の動力車乗務員の賃金を計算し、両者の賃金額を比較することとする。なお、弁論の全趣旨によれば、新旧両規程において、基準内賃金については特に差がないものと考えられるから、以下では、基準外賃金である乗務員手当及び割増賃金(超勤手当)について検討する。

(1) 旧規程の賃金規程と平成九年新規程の賃金規程の内容

旧規程の賃金規程のうち、乗務員手当及び割増賃金に関する部分は、別紙(五)<略>のとおりであり、平成九年新規程の賃金規程のうち、乗務員手当及び割増賃金に関する部分は、別紙(六)<略>のとおりである。

これによれば、乗務員手当に関しては、旧規程では乗務時間に応じた加給に高速加給及びその他加給を加えたものであったところ、新規程では、乗務時間に応じた加給(A加給)の他に、乗務キロ数に応じた加給(B加給)及び行先地の時間のうち労働時間とされない時間に応じた加給であるC加給が新たに設けられ、これとその他加給により構成されることとなったこと、割増賃金に関しては、一時間当たりの賃金単価が増額され、また、割増率も増加したことが認められる。

(2) 旧ダイヤにおける新旧両規程による賃金額の比較

証拠(<証拠・人証略>)によれば、被告は、本件変更に際し、各区所において、旧ダイヤを前提とした場合に、平成五年新規程による乗務員手当の額が、旧規程による乗務員手当及び超勤手当の合計額と同額ないしこれを上回るように平成五年新規程(賃金規程)の乗務員手当に関する規程を整備したこと、旧ダイヤにおける旧規程による動力車乗務員の乗務員手当及び超勤手当の合計額と平成五年新規程による乗務員手当の額を比較すると、別表2のとおりであって、全区所平均でみると、平成五年新規程による乗務員手当の額は、旧規程による乗務員手当及び超勤手当の合計額の一〇七・一パーセントとなっていること、平成五年新規程による乗務員手当の額が旧規程による乗務員手当及び超勤手当の合計額よりも少ないのは、全五三区所のうち、八区所に過ぎないこと、これらの区所についても、富山鉄道部、糸崎運転区及び博多新幹線運転所を除けば、平成五年新規程における超勤手当を加味すると、旧規程による乗務員手当と超勤手当の合計額を超えること、右三区所において、平成五年新規程による乗務員手当及び超勤手当の合計額が旧規程のそれを下回ることとなるのは、待合せ時間が長く、乗務時間が他区所に比べ著しく少ないといった事情によることが認められる。

(3) 平成九年三月ダイヤにおける新旧両規程による賃金額の比較

(証拠略)によれば、原告ら所属の各区所及びその後原告らが所属するに至った区所における平成九年三月ダイヤの乗務諸元に、旧規程及び平成九年新規程を適用した場合のそれぞれの乗務員手当及び超勤手当の合計額は、別表3「計算式」欄記載の式で表すことができる。そして平成九年新規程による乗務員手当及び超勤手当の合計額と、旧規程による乗務員手当及び超勤手当の合計額とが等しくなる割増賃金基礎額(割増賃金基礎額がこれ以下の場合に平成九年新規程による額が旧規程による額を上回ることになる。以下、この額を「賃金分岐点」という。)を各区所ごとに算出した結果が、別表3「賃金分岐点」欄記載の各金額である(なお、原告らは、平成九年新規程による賃金割増率の引き上げは考慮すべきでないと主張するが、賃金面の不利益が生ずるか否かは、現実に受け取る賃金額で比較すべきであるから、採用できない。)。

これによれば、篠山口鉄道部、加古川鉄道部及び小浜鉄道部においては、常に平成九年新規程による金額が上回ること、淀川(京橋)電車区、尼崎電車区、敦賀運転派出所、紀伊田辺運転区、福知山運転所及び米子運転所においては、賃金分岐点が五〇万円を超えており、現実には全動力車乗務員について平成九年新規程による金額が上回ること、下関乗務員センターにおいては、賃金分岐点が四五万二一八一円であり、大部分の動力車乗務員にとって平成九年新規程による金額が上回ること、大阪新幹線運転所においては、賃金分岐点が二四万九八七五円と低く、原告山下(平成一〇年二月現在の割増賃金基礎額は三二万〇二二六円)の場合は旧規程による金額の方が高額となることが認められる。なお、原告山下の場合、新旧両規程による年間支給額の差額は、四万三八二八円となる。なお、(証拠略)によれば、平成四年当時の被告の全運転手の割増賃金基礎額の平均は、三〇万七六二二円であったことが認められるから、大阪新幹線運転所の場合は、被告の平均的動力車乗務員であっても、平成九年新規程による乗務員手当及び割増賃金の合計額は、旧規程による額よりも低額であることになる。

(4) まとめ

以上を総合すれば、平成九年新規程による賃金制度は、原告ら所属の各区所及びその後原告らが所属するに至った区所についてみれば、大阪新幹線運転所を除き、みなし労働時間の廃止に伴う賃金の減少を十分に補填する賃金制度となっていることが認められる。これに対し、大阪新幹線運転所については、平成九年三月ダイヤを前提とする限り、平成九年新規程による賃金が旧規程による賃金を下回る乗務員が多く、十分な補填とはなっていない面があることは否定できない。また、証拠(<証拠・人証略>)によれば、同様の現象は博多新幹線運転所及び広島新幹線運転所においても認められ、これが、新幹線運転所における共通した現象であることが窺われる。そして、(証拠略)及び原告山下本人によれば、かかる現象が生ずるのは、新幹線運転所においては、列車間隔が比較的長いこと、特に深夜早朝の本数が少ないこと、夜間運転がされていないこと等の理由により、行先地の時間が他の区所に比べて長いため、旧規程で計算すると、みなし労働時間が超勤時間として賃金支払の対象となって賃金が高額となるためであることが認められる。

しかしながら、大阪新幹線運転所における賃金の減少幅もそれほど大きなものではなく、原告山下についてみれば年間四万三八二八円である。また、(証拠略)によれば、大阪新幹線運転所の動力車乗務員が現実に受け取っていた乗務員手当及び割増賃金の合計額を、平成五年二月と平成九年五月とで比較すると、六二名のうち九名については減額になっているが、五三名については増額になっており、一人当たりの平均では、六万六八七五円から一〇万一九四七円(ベア及び割増率の変化がなかったものとした場合の修正額は、九万四七四〇円)に増加しており、これは大阪新幹線運転所における旧ダイヤと平成九年三月ダイヤにおける乗務時間及び乗務キロの増加の程度を上回るものであって、旧制度当時に比べ現実の賃金が減少しているものではない。さらに、(証拠略)によれば、旧ダイヤを前提とした比較をすれば、大阪新幹線運転所においても新規程による賃金額が旧規程のそれを上回ることが認められ、結局のところ、ダイヤ編成によって新旧両規程の有利不利も変動することが窺われる。これらの事情に、他の多くの区所においては、平成九年新規程による賃金制度は、動力車乗務員にとって有利なものであること、新幹線運転所において旧規程による賃金額が高額になるのは、行先地の時間が長いからであって、他の区所と比較した場合それが必ずしも合理的であるかどうか疑問があること、乗務員の労働内容はダイヤ編成によって変動する部分が大きく、いかなるダイヤ編成においても常に旧規程よりも高額となる賃金制度を作成することが困難である反面、乗務員の賃金体系を統一的に定める必要性は高いことを考え併せると、新幹線運転所における平成九年三月ダイヤにおいて、たまたま新規程による賃金額が旧規程により計算した賃金額に僅かに及ばないことがあるとしても、これにより、本件変更による賃金の補填が不十分であるとはいえず、平成九年新規程は、全体的に見れば、みなし労働時間の廃止による賃金の減少を十分に補填する内容となっているというべきである。

なお、原告らは、平成九年三月ダイヤに基づき、旧規程による乗務員手当及び超勤手当の合計額と平成九年新規程による乗務員手当の額を比較し、前者が後者を上回るとして、賃金の補填措置が不十分であると主張するが、賃金の補填がされているか否かは、超勤手当を含む諸手当も含めた現実に受け取る賃金額で比較すべきであるから、採用できない。

また、列車乗務員の賃金については、新旧規程による比較ができていないが、列車乗務員の場合は、待合せ勤務時間の廃止に伴い、これより短いとはいえ折返し準備時間と看視時間が労働時間として設けられており、本件変更による見かけ上の労働時間の減少は動力車乗務員の場合よりも小さいのであるから、動力車乗務員における乗務員手当と超勤手当の合計の比較の結果からみて、列車乗務員の場合も、本件変更の合理性を失わしめるほどの減額はないものと推認できる。

(六) 結論

以上によれば、本件変更のうち、待合せ時間及び待合せ勤務時間の廃止を中心とする労働時間の構成及び内容の変更については、賃金規程の変更による賃金体系の変更とあわせ考慮すれば、その必要性及び合理性を肯定することができる。

なお、原告らは、JR東日本等における労働時間Bの制度、私鉄各社の制度、諸外国の鉄道乗務員の勤務制度等を例に挙げ、待合せ時間及び待合せ勤務時間の廃止が不合理なものであると主張するので、この点について付言する。確かに、(証拠略)によれば、労働時間Bの制度は、労働実態のない労働時間としての機能を営んでいることは否定できないものの、行先地の時間に着目して設けられたものではなく、超勤前提交番を廃止したことによって設けられた時間であると認められ、これが待合せ時間及び待合せ勤務時間と同様の性格を有するものであるとは認め難い。したがって、労働時間Bを設けるか否かは、超勤前提交番を採用するか否かの問題であって、本件変更とは直接の関係がないというべきである。また、証拠(<証拠略>)によれば、諸外国においては、行先地の時間を何らかの形で労働時間として取り扱っている例が多いことが認められるが、法体系が異なり、また鉄道乗務員の勤務制度の全体が明らかでない外国の制度を基準に合理性を論ずることは適切ではない。さらに、証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨によれば、我が国の大手私鉄では、行先地の時間はすべて労働時間とされていることが認められるが、被告と私鉄では行先地の時間の長短において大きな差があることが経験則上推認し得るから、右事実は、待合せ時間及び待合せ勤務時間を廃止することの合理性を否定するものではない。

4  その他の変更の合理性

(一) 動力車乗務員の一勤務の労働時間の制限の緩和

平成九年新規程は、動力車乗務員の二暦日にわたる乗務行路における一勤務の労働時間の上限を、一六時間(深夜帯の乗務時間を二時間以上含む場合は一四時間)から一八時間(深夜帯の乗務時間を二時間以上含む場合は一六時間)に延長するものである(乗務割交番作成規程三条)。しかしながら、弁論の全趣旨によれば、この変更は、休日数の増加に伴う乗務行路作成上の必要性から行われたものであることが認められ、また、延長されるのはあくまで上限であって、すべての二暦日にわたる乗務行路の労働時間が増加するものではないし、さらに、乗務割交番毎に当該乗務行路(二暦日にわたる乗務行路)を平均して一六時間を限度とするものとされているから、乗務割交番を通じて平均すれば、従来に比べ労働時間が延長されるものではない。これらの事情を考慮すると、右変更に伴う不利益は、それほど大きなものではないというべきである。

他方、(証拠略)によれば、平成九年新規程は、旧規程では動力車乗務員について三〇日に一〇回以下とされていた深夜勤務の回数を、四週間に九回以下に軽減していること、旧規程では休日の前の勤務終了時刻と次の勤務開始時刻との間に確保すべき時間(在宅休養時間)につき、公休日の場合は四〇時間、特別休日の場合は三六時間、特別休日と公休日を連続して設ける場合には六四時間とされていたのを、それぞれ四二時間、三六時間、六六時間として、在宅休養時間を一部延長したことが認められる。

以上によれば、一勤務の労働時間の制限の緩和は、これよ(ママ)る動力車乗務員の不利益がそれほど大きなものではなく、これが休日数の増加に伴う乗務行路作成上の必要性から行われたもので、その目的には一定の必要性及び合理性が認められること、深夜勤務の回数や在宅休養時間について一定の改善措置が講じられていること等を総合的に考慮すると、この程度の不利益は休日の増加に伴い通常甘受すべきものであると考えられ、合理的なものとして是認することができる。

(二) 一継続乗務キロの延伸

(証拠略)によれば、本件変更によって一継続乗務キロの限度が延伸されたことにより、下関・広島間の二二三・四キロメートルの区間のブルートレインが従来の二人乗務から一人乗務になり、また、米原・富山間の列車において、従来は途中駅で運転を引き継いでいたものが、全区間連続乗務が可能になるといった具体的不利益が生じていることが認められる。そして、かかる変更をしなければならない必要性は、本件全証拠によっても必ずしも明らかでない。

しかしながら、原告盛重本人によれば、下関乗務員センターにおいても、一継続乗務キロの短い区間ではブルートレインについても従来より一人乗務が行われており、運転業務(及びこれに付随する連結作業等の諸作業)自体は、一人でも十分行うことのできるものであること、旧制度の下においても、二二〇キロメートルまでは一人乗務が可能であったのであって、下関・広島間の二二三・四キロメートルにおいて一人乗務が可能になるとしても、延長されるのは三・四キロメートルに過ぎないことが認められ、これらの事実に、本件変更による一継続乗務キロの増加が二五キロメートルに過ぎないことを考え併せると、一継続乗務キロの延伸に伴う動力車乗務員の不利益は、それほど大きなものではない。そして、以上に加え、そもそも、列車の高速化により一継続乗務キロの制限は過重労働に対する歯止めとしての機能を失いつつあるというべきであり、事実、(証拠・人証略)によればJR東日本では一継続乗務キロの制限は撤廃されていることが認められること、他方、前提事実に述べたとおり、一般線区における一継続乗務時間は一時間(深夜帯の乗務時間を二時間以上含む場合)ないし二時間(その他の場合)短縮されており、長時間勤務に対する歯止めはかえって強化されていること、証拠(<証拠・人証略>)によれば、下関・広島間については、踏切の改良、障害物検知装置の増設等の保安面の整備が行われ、運転環境が改善されたことが認められること等の事情を総合考慮すると、本件変更程度の動力車乗務員の一継続乗務キロの限度の延伸は、合理的なものとして是認することができる。

5  まとめ

以上によれば、本件変更の中心的部分である待合せ時間及び待合せ勤務時間の制度の廃止は、賃金規程の変更とあわせてみれば、その必要性及び合理性を肯定することができ、動力車乗務員の一勤務の労働時間の制限の緩和及び動力車乗務員の一継続乗務キロの限度の延伸についても、その不利益の程度及びこれとあわせて行われた労働条件の改善等を総合すると、いずれもその合理性を認めることができるのであって、本件変更は、全体として合理性を有し、原告らは、これに同意しないことを理由に、その適用を拒絶することは許されないというべきである。

四  結論

以上の次第で、原告らの請求のうち、一、二、六の各2(待合せ時間ないし待合せ勤務時間が労働契約上の労働時間であることの確認を求める部分)、三(待合せ時間、準備時間及び折返し準備時間の指定を求める部分)及び四(旧規程の一継続乗務キロの定めに従ってのみ就労の義務があり、新規程の一継続乗務キロの定めに従って就労する義務のないこと及び一継続乗務キロの限度が二二〇キロメートルであることの確認を求める部分)はいずれも不適法であるから却下し、その余はいずれも理由がないから棄却する。

(裁判長裁判官 松本哲泓 裁判官 谷口安史 裁判官 和田健)

別紙(一) 現行労働条件

(一) (待合せ時間)労働協約第一六三条 就業規則第一〇二条

1 行先地の時間から労働時間を除いた時間のうち、その六分の一の時間を待合せ時間とし、労働時間とみなして取り扱う。

ただし行先地の時間から労働時間を除いた時間が六〇分までの場合はその時間とし、また六〇分を超える場合においてその六分の一の時間が六〇分未満の場合は六〇分に切り上げる。

なお行先地の時間から労働時間を除いた時間が、深夜帯の時間を二時間以上含み連続五時間以上ある場合は、この取扱いにあたって四時間を控除し計算する。

2 待合せ時間は、折返し準備時間の前後に区分し、動力車乗務員運用表(以下「運用表」という)に指定する。

(二) (準備時間)労働協約第一五八条就業規則第九七条

1 準備時間は、一勤務の乗務前又は乗務後における準備若しくは整理のための時間とし、次の各号に掲げる積算要素を作業の実態に応じて算定のうえ、積算合計時分を五分単位に切り上げ、二五分、三〇分、三五分、四〇分、四五分、五〇分、五五分、六〇分の八区分のうちから運用表に指定する。なお、六〇分を超えて特に設ける必要がある場合は、その必要な時間を加算する。

(1) 乗務前及び乗務後の点呼時間(達示閲覧時間及び報告類の記帳時間等を含む。)

(2) 点呼箇所から車両留置線(乗務箇所、便乗箇所を含む。)まで及び車両留置線(乗継箇所、便乗箇所を含む。)から点呼箇所までの時間。ただし、一〇分までの時間

(3) 車両点検整備時間

(4) 車両留置線から駅区境界まで及び駅区境界から車両留置線までの時間

(5) 駅区境界から発車までの時間(出区時間を除く。)及び到着から駅区境界までの時間(入区時間を除く。)

(6) 乗継箇所出場時刻から列車到着までの時間

(7) 便乗箇所出場時刻から列車発車までの時間

(8) 乗継時における引継ぎの時間

2 所定外の区分の適用を受ける作業をした場合には、変更後の区分を適用する。

(三) (折返し準備時間)労働協約第一五九条 就業規則第九八条

1 一勤務の中間において乗務のため列車を待ち合わせる場合は、行先地における運転区所の前条に規定する準備時間から、乗継及び便乗の場合は一〇分、出入区を担当する場合は五分を減じた時間までを折返し準備時間とし、運用表に指定する。ただし、労働協約第一五六条第一号ただし書(就業規則第九五条第一号ただし書)(行先地の時間が一〇分以下の場合<便乗の場合は除く>。)に該当する時間を除く。

2 運転区所が所在しない箇所における場合も前項に準じて取り扱う。

(四) (待合せ勤務時間)労働協約第一五〇条 就業規則第八九条

一勤務の中間において乗務のため他の列車を待ち合わせる場合は、次の各号に定める時間を待合せ勤務時間とする。

(一)(ママ) 電車及び気動車の場合は、待合せ時間中の五〇分までとする。

ただし、次に掲げるものの一に該当する場合は、待合せ時間中の一時間までとする。

ア 列車種別が、急行及び特別急行旅客列車の場合

イ 継続乗務キロが片道一〇〇キロ以上の場合

ウ 指定線区の区間のみを運転する場合

(注) 指定線区とは、次の定めに該当する線区で、あらかじめ会社の指定したものをいう。

(ア) 一時間あたりの停車駅数が一三駅以上の線区とし、この場合における停車駅数については、始発駅及び終着駅を含め、駅員無配置駅は一駅を一・五駅に、業務委託駅は一駅を一・二駅として計算する。

(イ) 所定乗務行路中に占める修正乗務時間(二〇分以内の待合せ時間がある場合、その時間を乗務時間に加えたものをいう。以下同じ。)の割合が五五%以上のもの。

(ウ) 一時間あたりの停車駅数を算定する場合の運転時分は、始端駅の発時刻から終端駅の着時刻までの運転時分による。この場合、列車によって運転時分が異なるときは、一個列車あたりの平均運転時分による。

(エ) 所定乗務行路中に占める修正乗務時間の割合は、乗務時間(便乗時間を含む。)、準備時間(加算時間を含む。)、徒歩時間及び待合せ勤務時間(加算時間を含む。)を合計したもので、修正乗務時間(便乗時間を除く。)を除して算定する。

(オ) 駅員の配置駅であっても、電車又は気動車の全停車回数の半数以上が無配置駅の状態になる場合は、駅員無配置駅とみなして換算一・五駅とする。

(2) 前号以外の列車の場合は、待合せ時間中の一時間までとする。

(3) 待合せ箇所における到着又は出発のいずれか一方の列車が適用時分の異なる場合は、待合せ時間中の五五分までとする。

(4) 待合せ時間が二四時間を超える場合、待合せ時間から二四時間を控除した時間の六分の一の時間とする。

(5) 特に作業に従事することを指示し、第一号から第三号に定める時間を超える場合には、その必要な時間を加算する。この場合においては、加算する時間を乗務行路表に指定する。

(6) 待合せ時間が待合せ勤務時間を超える場合は、待合せ勤務時間を作業の実態に添うよう乗務の前後に区分し、時間帯を明確にしておくものとする。この場合、最低は二〇分とする。ただし、第四号に定める時間については乗務前とする。

別表1 淀川(京橋)電車区

<省略>

岡山車掌区

<省略>

下関運転所(下関乗務員センター)

<省略>

小浜鉄道部

<省略>

加古川鉄道部

<省略>

紀伊田辺運転区

<省略>

米子運転所

<省略>

大阪新幹線運転所

<省略>

福知山運転所

<省略>

別表2 <シミュレーション結果における旧制度手取額と新制度手当額の比較>

<省略>

別表3

<省略>

別紙(二) 就業規則現改比較表(動力車乗務員)

<省略>

別紙(三) 就業規則現改比較表(列車乗務員)

<省略>

別紙(四) 乗務割交番作成規程現改比較表

<省略>

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